7.セーラー服の少女
「あー疲れた〜!」
翌日、16時頃にユウは身体を伸ばしながら外から帰ってきた。するとレイがユウにホットカフェラテを差し出す
「お疲れ様。これ飲んでゆっくりして」
「わー!ありがとう!レイは気が利くね〜!」
ユウはカフェラテを受け取るとソファーに座った。
ユウとレイはいち早く人を襲っている霊界民を見つけるために、今日から1日交代で町を見回ることにした。今日はユウが見回り担当。そのため、ほぼ1日中外を歩いていたのだ。
「どうだった?」
「今のところ平和だったよ!逆に暇すぎて疲れた!」
そう言って明るくピースするユウを見て、「元気じゃん」とレイは笑う
「っていうか、幽霊も普通に疲れるんだね」
「そうみたい。身体的には大丈夫なんだけど、ずっと外っていうので疲れるよ」
「それわかるかも。気持ちの問題では疲れるのかな?」
「多分そうだと思う」
「まぁ、身体は死んでも心はあるからね。そういう疲れはあってもおかしくないかも」
するとユウは面白そうに笑った
「こういうのやってるといろんな発見があるね!」
「そうだね。毎回、意外と自分のこと知らないんだなーって思うよ」
ユウはうんうんと頷く。そしてレイを見上げ、ニッと笑顔をつくった
「明日はレイの番だよ〜、頑張って!」
「うん、頑張るよ」
「昨日よりは大変じゃないから安心してね!」
それを聞いてレイはふっと吹き出した。
昨日は八尺様が霊界に戻った後、依頼人の西山にあらゆることを質問された。その質問の中には自分たちが幽霊であることがバレてしまいそうな質問もあり、2人とも答えることにかなり苦戦したのだ
「あれは本当に大変だったな〜」
「西山さんが帰ったの21時くらいじゃなかった?」
「たしかそのくらいだったよね」
「私たち、初めてにしては頑張ったよね〜」
「うん。八尺様の件も西山さんの件も、なんとか解決して良かったよ」
「そうだね!」
するとユウは、カフェラテを飲み終えたカップをテーブルに置くと立ち上がった
「よーし、そろそろ行こっかな」
今は休憩で戻ってきていた。ユウはこれから18時くらいまで見回りするつもりらしい。
「もうちょっと休みなよ」
「大丈夫だよ!もう元気!」
ユウは元気モリモリのポーズをする。
その時、電話がかかってきた。相談所用のスマホだ。
「私出るよ!」
ユウはスマホを手に取ると耳に当てた
「もしもし、こちらユウレイ相談所です!」
すると相手の声を聞き、ユウは真剣な顔になった
「今どこにいるんですか?…わかった!今すぐ行くので避難しててください!」
ユウは電話を切る。そして急いでスマホを白衣のポケットに入れた。すると、依頼だと気づいたレイは白衣を羽織る
「どこ?」
「小学校だって。急いで行こう!」
2人は走って小学校へ向かった
やがて小学校の校門が見えてくるとそこへ駆け寄り、門の取手を握った。しかし、門は鍵がかかっており、開かない
「どうしよう、他に入れそうなところあるかな?」
「見た感じどこも閉まってるよ」
2人は困っていると、ユウの白衣のポケットから着信音が聞こえた。
「もしもし?」
『…て…』
相手の声が聞こえない。ユウはスピーカーモードにする。すると、震えた小さな声が聞こえた。
『助けて…早く来てください…』
さっき相談所に電話してきた女の子の声だ。その子の後ろにも何人かいるようで、こそこそと声が聞こえる。
『セーラー服のお姉さんがもう近くにいるんです…』
泣きそうな声で女の子は言う。
ユウがさっき受けた電話によると、彼女たちは下校するため校舎から出ると、突然見知らぬセーラー服の少女に追いかけられたらしい。
今はなんとか隠れているが、見つかるのも時間の問題だ。
「今どこに隠れているの?」
『外の体育倉庫裏です…』
「わかった。そこ行くから待っててね」
そう言ってユウは電話を切ろうとする。すると、『お願い、切らないで!』と別の女の子の声が聞こえた
『私たち、不安なんです…』
「…わかった、繋げておこう!」
『ありがとうございます!』
するとユウとレイは顔を見合わせた。
「レイ、どうやって中入る?」
「僕、今思いついたんだけど」
するとレイは閉まっている門に向かって歩き出した
「えっ、何しようとしてるの?」
するとレイの身体がスーッと門を通り抜けた。そして涼しい顔でユウを見る。それを見てユウは「あぁそっか!」と声を上げ、レイと同じように門を通り抜けた。2人は幽霊のため、壁や塀を通り抜けることができるのだ。
「ナイスアイデアだね!」
「ありがとう。それで、体育倉庫ってどこ?」
2人は校庭を見渡す。すると、ユウは向こう側にある小さな建物を指さした
「あの灰色の建物じゃない?」
『たぶんそこで合ってます…!』
スマホから声が聞こえる。
2人は体育倉庫を見ると、その近くにいるセーラー服の髪の短い少女を見つけた。
「きっとあの子だよね」
レイは頷くと、周りにある野球用のフェンスを見た。
「フェンスの後ろを通って行こう」
「そうだね。私たちも見つからないようにしなきゃ。」
2人はできるだけ足音を立てないように、静かにフェンスの後ろへと行く。そして端まで辿り着くとしゃがんだ。
「向こうのフェンスまで遠いな…」
レイは呟く。
フェンスは3箇所ほど離れているところがあり、フェンス同士の距離が50メートルほどある。
「姿を消して行けばいいんじゃないかな」
「相手はきっと霊界の人だよ?たぶん普通に見えちゃうと思う」
「そっかぁ〜…タイミング見て行くしかないね」
少女は後ろを向いている。今のうちに行けるだろう。ユウを先頭に、2人は姿勢を低くしたまま小走りで次のフェンスへ移動した。
しかし、レイがフェンスに辿り着く瞬間、少女が振り向いてしまった。レイは慌ててフェンスに隠れ、息を殺す。
「ソコニイルノカ…」
少女は2人のいる方へ近づいてきた。
「こっち来るよ…?!どうする?!」
「ま、まだ僕たちのこと見えてないと思うから、とりあえず端まで行こう」
2人はまた向こう側の端まで小走りで行く
「ここからどうする…?」
「もうどうしようもないよ…」
できるだけ見つからないように動きを止めるくらいしかない。その時、スマホから男の子の声がした
『カウンセラーさん、僕がボールを投げて注意を引くのでその間に走って来てください!!』
すると体育倉庫の方からサッカーボールが勢いよく飛び出し、地面でポンッと音を立てた。少女はボールの方を見ると、そっちへ歩き始める。
「ありがとう!」
「今のうちに行こう」
2人は走って一気に体育倉庫裏まで行った。
「あっ、カウンセラーさん…!」
「やっと来た!」
「無事で良かったぁ〜…!」
そこで隠れていた女の子2人と男の子3人の小学生たちが安堵の表情を浮かべる。ユウとレイは電話を切ると、その子たちに駆け寄った
「お待たせ!遅くなっちゃってごめんなさい」
「いえいえ、来てくれてありがとうございます…!」
スマホを持ったポニーテールの女の子が涙を浮かべながら頭を下げた
「みんな今のところ無事でよかった。」
「はい、"今のところは"ですけどね…」
小学生たちはみんな暗い顔になる。するとユウとレイはその子たちの肩に優しく手を置いた
「大丈夫だよ」
「僕たちが必ず君たちをお家に帰すから」
2人の頼もしい声に小学生は笑顔になった
「「ありがとうございます!」」
「お兄ちゃんたちかっけ〜!」
「さすが霊界カウンセラー!!」
「ヒーローみたい!!」
次々と小学生5人は喋り出す。ユウとレイは慌ててシィーッと口に人差し指を当てた。
「「「「「ごめんなさい…」」」」」
「いいよ。褒めてくれてありがとう!でもあのセーラー服の子に気づかれてないかな?」
ユウは体育倉庫の横から少し顔を出し、少女の様子を見る。少女はサッカーボールを見て立ち止まっていた
「気づかれてなさそう!」
「「「良かった〜!」」」
みんなほっとして胸を撫で下ろし、地面に座った
「ねえ、なんで警察じゃなくて私たちに電話したの?」
ユウは抱いていた疑問を投げかけた。相談所より110番の方が覚えやすいはずなのに、わざわざ相談所に電話をかけてきたことが不思議だったのだ。
すると、4年生くらいの男の子が口を開いた
「僕、お化けの本を読んだことがあって、あの人がそこに載ってた話にそっくりだなって思ったんだ」
それで相談所に問い合わせた方が早いと思い、電話をかけたそうだ。電話番号はポニーテールの子がメモを取っていたようで、すぐに電話をかけることができた。
それを聞いた後、レイは男の子を見た。
「そのそっくりだって思った話、
「うん、たぶんそんな感じの名前だった!」
「やっぱり。きっとあれは彷徨少女だよ」
彷徨少女とは、大体小学生の下校時刻に現れるセーラー服の少女で、子供たちを襲い、見知らぬところまで追いかけてくる霊だ。
レイは男の子の言葉を聞いた時、近くにいるセーラー服の少女にそれらの条件が合っていることに気がついた。
「よくそんなこと覚えてるね」
ユウはレイと男の子の記憶力に感心する。
その時、こっちに走ってくるような足音が聞こえた
「バレてる。みんな逃げるよ!」
レイがそう声を上げる。彷徨少女がこっちへ向かってきているのだ。
「「「「「きゃぁぁぁ!!」」」」」
小学生たちは悲鳴を上げて一斉に走り出す。ユウとレイはその後ろから走り出した
「ユウ、僕たちまで逃げちゃっていいの…?」
彷徨少女の話も聞かないといけないのに、逃げてしまうと時間がかかってしまう。それに、カウンセラーである以上、少女にも寄り添わなければならない。
「まず小学生たちを帰らせないと。この流れでみんな帰らせて、途中で私たちは離れて彷徨少女を落ち着かせよ!」
「わかった!」
するとユウは小学生たちに明るく声をかけた
「みんな!止まらないで走って〜!」
するとそれに続いてレイも明るく声をかける
「止まると追いつかれちゃうよー!そのまま校門出て帰っちゃおー!」
「「「「「おー!!」」」」」
小学生たちはそう声を上げると校門へとスピードを上げた
「その調子だよー!」
「そのまま走ってー!」
ユウとレイはそう言いながら、小学生たちの純粋さに思わず笑うと、走る方向を変えた
「さて、彷徨少女さん!こっち来てください!」
ユウが呼ぶと、彷徨少女は「アァァ!!」と叫びながらこっちへ方向転換した。2人は走りながら彷徨少女と一定の距離を保つ
「そろそろあれやってもいいかな」
ユウは後ろを向くと、走りながら手のひらを彷徨少女に向けて前に出す。すると、彷徨少女がいきなりスピードを上げてきた
「うわぁぁ!落ち着いて落ち着いて!!」
ユウは少しパニックになりながらもシュッと手を右へ動かした。するとユウのヘアピンが輝き出す。彷徨少女はゆっくりとスピードを落として、やがて止まった
「うわぁぁっ!」
「ユウ?!大丈夫?」
ユウは尻餅をつく。後ろ向きで走ったため、足がスピードについてこれず、転んでしまったのだ。それを見たレイは、驚きながら慌ててユウに駆け寄った
「大丈夫、これくらい平気だよ!」
「まったく〜、気をつけなよ?」
心配してるレイに向かってユウはえへへっと笑った。
「ナゼワラッテイラレル…ユルサナイ…ユルサナイ…」
一方、彷徨少女は低い声でぶつぶつと呟きながら2人を睨んでいた
霊界カウンセラー 夜明け @yu_ri0615
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