5.背高の影

「もー!全然依頼こないじゃーん!」


ユウがソファーで寝転がりながら叫ぶ。

ユウレイ相談所がオープンして1週間が経った。しかし、未だ2人は仕事ができていない


「そんなすぐにくるはずないよ。それに、依頼がないのはいいことじゃん」


本を読みながらレイは言った


「そうだけどさー。仕事ないのは退屈だよ!」


その時___


プルルルルルッ


相談所用のスマホが鳴った。電話がかかってきたのだ。レイは、スマホを手に取ると耳に当てる


「もしもし、こちらユウレイ相談所です」


すると、ユウは真剣な顔になって身体を起こした


「要件はなんでしょうか?」

『マジ?!本当に繋がった〜!』

「あの、要件はなん___」

『あぁ要件なんてないから!』


プツッ…


数人の笑い声が聞こえた後、電話が切れる音がした。レイは、スマホをゆっくり耳から離す


「またイタズラだった…」


そう言って、手に持っていたスマホをテーブルの上に置く。

この1週間、かかってくる電話は興味本位だけのものばかりで、相談に関するものは一つもなかった


「なんでこんな電話しかこないの!」


ユウは、バンッとテーブルに拳をつく。その音にレイは驚き、身体をすくめた


「こっちは真剣なのに!」

「まぁまぁ…いつか本当の依頼の電話がくるはずだよ」


レイはユウをなだめようとする。するとユウは、鋭い目でレイを見た


「レイは悔しくないの!こんなふざけたような電話されて!」

「く、悔しいよ。でもそういうものだと思ってやらないとやっていけないと思うよ!」


すると、少しユウの表情が緩む。しかし、まだ不機嫌なようで口を尖らせながら背もたれに寄りかかった

その時、また電話がかかってきた。


「もしもし、こちらユウレイ相談所です」

『あぁ、本当にあるんだ…』


スマホからのその言葉を聞き、ユウとレイは、またイタズラか…と思う。レイは深呼吸をすると、口を開いた


「要件はなんですか?」


沈黙が走る。やがて、スマホから声が聞こえた


『あの、相談したいことがありまして…』


すると2人は顔を見合わせる


「どのようなことでしょうか?」

『実は、1ヶ月前くらいから誰かに見られているような気がして…それについて相談したいので、こっちに来てくださることは可能ですか?』


レイは再びユウを見る。ユウは笑顔で頷いた


「大丈夫です。場所と名前を教えていただけないでしょうか」


レイは、電話主からそれらを聞き、メモをする


「ありがとうございます。今からそちらに向かいます」


レイは丁寧に挨拶をすると、電話を切る。そして、微笑みながらユウを見た


「お仕事ですよ」

「やったー!」


ユウは、満面の笑顔でソファーから立つ。そして、ピンク色の十字架を付けた白衣を羽織った


「レイ、行こ!」

「うん!」


2人は同時に相談所から飛び出した






とあるアパートの305号室。そのドアの前にユウとレイはやってきた


「ここだよね?」

「たぶん…」


レイは場所を書いたメモを見て、アパートと号室を確かめる。確かにこのアパートの305号室だ。


「インターフォン押すよ?」


レイは、インターフォンに手を伸ばす


ピンポーン


インターフォンの音が鳴り響く。やがて、ガチャッ…とゆっくりドアが開いた。

中から、20代くらいの男性が現れる。

男性は、ユウとレイを見た戸惑った表情を浮かべた


「ユウレイ相談所の方ですか…?」

「はい!そうです!」


ユウは明るく答える。その隣でレイは、メモをチラッと見て、顔を上げた


西山にしやま 大輝だいきさんですか?」

「はい、そうです」


彼で合っていたようだ。レイは安心し、余計な力がスッ…と抜けた


「あの、中へどうぞ」

「「ありがとうございます。お邪魔します」」


2人は、西山に案内され、和室へ入った


「こちらお座りください。今お茶を持ってきますね」


そう言って西山はキッチンへ行った


「アパートに和室って珍しくない?」

「うん、見たことない」


2人は和室を見回す

すると、西山が戻ってきた


「おまたせしました」

「「ありがとうございます!」」


西山はお茶とお菓子を置くと、ユウとレイに向かい合うように座った


「まさか子供だとは思ってなかったのでびっくりしました」

「こっちから名乗ればよかったですよね。本当にすみません」

「大丈夫ですよ」


優しそうな笑みを浮かべる西山を見て、ユウとレイは安心した


「えっと…誰かに見られている気がするんですよね?」


レイは、話の入り方が分からずたどたどしながらも西山に問いかける。すると西山は頷いた


「自分のプライベートを見られているようで、怖いんですよ…」


西山は一度警察に調査してもらったらしいが特にそのような人は見つからないと、それ以上調査をしてもらえなかったらしい


「そんなことあるんですね…」


2人は、警察が協力してくれないことに驚く


「それで悩んでいる時にユウレイ相談所のポスターを見つけたんです。それで、もしかしたらここに頼めば解決するかもと思って連絡しました。」

「そういうことですか」

「それじゃ、私たちが西山さんを見ている人の正体を突き止めましょう!」


ユウはポンッと胸に手を当てて、自信満々に言った。


「その人を探すってこと?」

「じゃないと西山さんのこの悩みはずっと解決しないでしょ!」

「そうだね」


すると、ユウとレイの会話を聞いていた西山は感心の表情になっていた


「君たち、頼もしいね」

「「え…?」」


2人は西山の方に顔を向ける


「正直、最初は子供か〜って思ってたんだけど、真剣に俺の話を聞いてくれて、安心ました」

「ほんとですか…!」


西山は優しい表情で頷く。すると2人は、褒められてくすぐったいような気持ちになった


「ありがとうございます!」

「全力で努めるのでよろしくお願いします!」


2人で頭を下げる。すると、西山も頭を下げた


「こちらこそ、お願いします」


すると、3人は同時に頭をあげる


「それじゃ、探しに行きましょう!」

「ちょっと待って」


レイは、立ち上がったユウを制し、西山を見た


「誰かに見られていると感じてから何か気になることはありますか?」

「気になること…」


西山は部屋を見回す。すると、ハンガーにかけてあるジョギング用のジャージに目を止めた


「一つだけあります」

「なんですか?」

「俺、よく夕方にジョギングするんですよ。その時にたまに『ぽぽぽ』っていう女性の声が聞こえるんです」

「ぽぽぽ?」


ユウは不思議そうに首をかしげる。一方、レイは表情を変えずに西山の顔を見ていた


「それだけですか?」

「うん…俺が気になるのはそれくらいかな」


するとレイは手を顎に当てて、何か考える仕草をする


「それじゃ、いつもジョギングする時間に外に出て探しましょう」


レイはユウを見る。するとユウは、突然探偵のように喋り出したレイに驚きながらも頷く


「西山さん、何時くらいにジョギングしてるんですか?」

「16時ごろです」


3人は棚の上に置いてある時計を見る。現在、15時17分。あと1時間くらいだ。

3人は時間になるまで調査の作戦会議をした





16時、3人はアパートから出た。

先に西山がジョギングを始める。その5秒後くらいにユウとレイが歩き出した。


西山の近くに人がいると、犯人は出てこないと考え、ジョギングしている西山を少し離れたところでユウとレイが着いていくことにしたのだ


「西山さんを見てる人、出てくると思う?」


ユウは小声でレイに問いかける


「わからない…話聞いてる感じ、姿を現してないと思うから」

「そうだよね〜…」


2人は周りを見ながら西山に着いて行った





数分後、『花咲公園』というところまできた。すると、西山が口を開いた


「ここら辺でよく声がするんです」


3人は耳を澄ます。しかし何も聞こえない


「今日は聞こえないのか…」


西山は残念そうに呟く。そして花咲公園を通り過ぎた。その時______


ぽ…ぽぽ…


女性の声が微かに聞こえた。3人はハッとして立ち止まる


「レイ、聞こえた?!」

「聞こえた。西山さん、これですか?」

「はい!これです!!」


ぽ…ぽぽぽ…


女性の声はだんだん近づいてくる


「どこから聞こえてるんだ…?」


レイは周りを見渡す。すると、公園にある2メートルほどの高さの木の上に出ている白い帽子を被った女性に目が止まる


「白い帽子…」

「あの女の人のこと?」


ユウが尋ねると、レイは頷く。すると、白い帽子を被った枝のように細い女性が木の後ろから出てきた。その姿を見て、3人は目を大きく開いた


「あの人、デカすぎないか?!」

「しかも細すぎ?!」

「想像以上だ…」


女性は、驚いている3人に向かって走りだした


「「「わぁぁぁ!!」」」


3人は急いで女性から逃げ出した





「あの人がもしかして西山さんを見てた人?!」


ユウは走りながら声を上げる。すると、レイが横目でユウを見る


「そうかも。たぶんあれは八尺様だよ」

「八尺様?」


ユウは初めて聞いた名前に首を傾げる。すると、前を走っている西山が頭だけ振り返った


「都市伝説のやつですか?」

「はい!」


八尺様は、身長が八尺(約2メートル40センチメートル)の女性の怪人だ。八尺様は魅入った男性や子供を付き纏い、やがてその人を取り殺してしまうのだ


レイはその説明をすると、西山が怯えた表情になった


「じゃあ俺…殺されるのか…?」


そんな震えた声を聞き、ユウとレイはハッとする


「そういうことじゃん!どうしよう!」

「と、とにかく僕たちで西山さんを守ろう!」


2人は西山に近づくと、3人はスピードを上げた。すると、八尺様はそれに合わせてスピードを上げてくる


「追いつかれちゃう!」

「俺…殺されたくないよ…」


3人は、怖い気持ちを押し殺しながらなにかいい方法がないかを考える。

するとレイはユウを見た


「ユウ、ルイナさんに教えてもらったやつやってみようよ」

「それがあった!じゃあ私がやるから西山さんをよろしく!」


するとユウは素早く振り返り、手を前に出す。そして、八尺様に手のひらを向けた


(お願い、止まってください!)


そう願うと、手を右側にスライドした。

しかし、八尺様が止まる気配がない


「えっ、なんで!?」


ユウは焦りながら何回も手をスライドする。しかし、なかなか八尺様は止まらない


「ユウ!早くこっち来て!」


西山を避難させたレイが、ユウに叫ぶ。ユウは一瞬、迷いの表情を浮かべた


(私が止めなかったら…みんなを危険な目に遭わせちゃう…)


するとユウは深呼吸をし、再び八尺様に手のひらを向けた


「お願い、八尺様!どうか止まってください!!」


そう叫び、手を右側へスライドした。すると、ピンク色の十字架のヘアピンが輝き出す。

八尺様はゆっくりと動きを止めた


「止まってくれた…!」


すると、レイと西山がユウのところへ駆け寄った


「本当なんだ…」


レイは戸惑いながら八尺様を見る。ユウは、八尺様に近づいた


「なんで人を付き纏うの…?」


すると八尺様は申し訳なさそうな表情になり、黙り込む


「ユウ、一旦相談所へ戻ろう。そこで話を聞こうよ」

「わかった」

「八尺様と西山さんはいいですか?」

「俺はいいけど…」


3人はゆっくりと八尺様を見る。すると、八尺様はわずかに頷いた

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