3.いざ人間界へ

「レイー、準備できたー?」

「うん、できたよ〜」


とある金曜日、2人は荷物を持って外に出た。その荷物は、1週間以上旅行するのかと思うほど多い。しかし、ユウはそんな荷物を持っているのにも関わらず、ツインテールを揺らして、踊るようにルンルンと歩いていた


「レイ〜、今から私たち人間界に行くんだよ〜!楽しみすぎるよ〜!」


そう、2人は今から人間界へ行くのだ。

人間界に相談所をつくり、そこでしばらく暮らすらしい。だからたくさんの荷物を持っているのだ。


「ユウ、そのセリフ何回も聞いたよ」


レイは呆れて、ため息をついた。ユウは昨日からずっとこのセリフを言っていた


「だって楽しみなんだもーん!しょうがない!」


そう言ってユウは、ニコッと満面の笑みを浮かべる


「なんでそんなに楽しみなの?」

「だって久しぶりの人間界だよ!ここに来てからは全然行ってないもん!」


レイは、そう言うユウに「へ〜」と返しながら、何か思い出すように空を見上げる


「たぶん僕も生前以来だよ」

「レイもそうなんだー!久しぶりの人間界楽しも〜!」

「僕たち仕事のために行くんだよ?」

「でも楽しまないと損だよ〜!!いっぱい遊ぼうよー!」


まだテンションが高いユウを見てレイはため息をつく


「人間界着いた時はあまり目立たないように大人しくしなよ?」

「わかってる!」

「ほんとに?」

「ほんとだよ〜!!なんで疑うの〜!」


ユウは少し頬を膨らませる


「はいはい、ごめんごめん」

「レイって雰囲気柔らかくておっとりしてるように見えるけど、意外とストレートに言うよねー!」

「それはユウだからだよ」

「それって仲良いからってこと?」

「そう!」


レイは笑顔で頷く。ユウはそれを見て照れ笑いを浮かべた


「ねぇ、レイは人間界楽しみじゃないのー?」


ユウは、レイの顔を覗き込む。すると、レイは少し目をそらした


「んー、楽しみではないかな〜」

「え〜、もったいなーい!家族に会いたいとかないの〜?」


するとレイは、少しこわばった顔をして立ち止まった。


「レイ?どうしたの?」

「いや…なんでもない!」


レイは、ユウに慌てて笑みを見せる


「そう?…って、なんでもないじゃなくて質問答えてよ!」


そう叫ぶユウを見て、レイは少し笑う。そして上を見上げた


「うーん…今は家族に会いたいとかもないかも」

「えぇ、そんな人いるんだ…まぁいるか。私は家族に会いたいけどなぁ〜」


ユウは地面を蹴ると、前方を見る。すると白い花で囲まれたアーチ状のゲートが見えてきた


「あ!あそこだ!」


ユウは目を輝かせて走り出す。

このゲートは半霊界と人間界を出入りするゲートなのだ


「レイ!早く行くよ!!」

「ちょっと待って〜、早いよー」


レイは、走っていくユウを追いかける。やがて2人はゲートの前に立った


「よーし、いくぞー!」

「ユウ、身分証明カード出さないと」

「あぁそうだった!」


ユウは慌てて服のポケットから身分証明カードを出す。

このカードは、半霊界に来た時に渡されるカードで、本人の顔写真・名前・誕生日・命日が記載されている。これを持っていればゲートが開き、自由に出入りすることができるのだ。


「えっと、この機械でカードをスキャンすればいいんだよね?」


ユウは、ゲートのそばにある機械を指さす。この機械は身分証明カードをスキャンするものらしい


「うん、そうだと思う」


2人は、機械でそれぞれ身分証明カードをスキャンする。すると、ゲートが開かれた


「おー!開いた〜!」

「ここに入れば人間界に着くのかな」

「そうだね!人間界へレッツゴー!!」


ユウはゲートの中へと駆け出した


「だから早いって〜」


レイはそう呟き、ゆっくりゲートの中に入っていった





ゲートから抜けると、森の中だった

レイは、辺りを見渡す。薄暗く、足元にはところどころに切り株がある


「あれ…ユウどこにいるんだ?」


周りを見たが、先に行ってしまったユウの姿が見えない。レイはキョロキョロとユウの姿を探す。すると、遠くから少女の声が聞こえてきた


「レイー!!」


声のする方を見ると、ユウがレイに向かって走ってきていた


「よかったー!いたー!」


そう言ってユウはレイに飛びつく。ユウとレイはそれぞれ少し離れたところに辿り着いてしまったらしい


「待ってもなかなかレイ来なくて焦ったよ〜!」

「僕もユウがいなくてびっくりしたよ」


そう言って2人は笑う。そして周りを見渡す


「どうやってここから出るの?」

「わからない、ちょっと周り歩いてみる?」

「そうだね!探索だー!」


ユウが元気な声を出す。それを合図に2人は歩き出した。


しかし、しばらく歩いていると、ユウのテンションが少し落ち着いていた


「うーん…どこも木だね」

「そりゃあ森だからね」


レイはチラッと右前の木を見る。そこには看板があり、消えかかった字で『龍空りゅうくうの森』と書かれている


「へー、かっこいい名前だね!」


ユウとレイは看板の前で立ち止まった


「どんな由来でこんな名前になったんだろ?」

「ねー!昔に龍が空にいたのかな?」

「確かに、ありそうだね。そういう迷信でこの名前がつけられたのかも」

「昔の人の想像力はすごいよねー!」


ユウは感心したように看板を見つめる

すると、次第に看板の文字が見えなくなっていった


「あっ、日が暮れてきてる」


空を見ると、もう藍色になってきていた。星も2〜3つ出てきている


「人間界は夕方だったんだね!」

「僕たちが家から出たのは朝だったのに不思議だね」

「午前と午後が逆なのかな?」

「確かに…お化けって人間界の夜に活動するってよく聞いたし」

「それってこういう仕組みだったんだね〜!」


ユウは面白そうに笑い、踊るようにくるっと回りながら森を進んでいった。レイはそんなユウに着いていく


しばらく進むと、ユウがふと立ち止まり、左側を見た。そして目を見開き、レイを見た


「レイ!!こっちに小屋がある!!」

「小屋?」


レイはユウのところへ行くと、ユウが見ていたところを見る。すると奥に、まるたをくっつけて作ったような木の小屋があった


「ほんとだ」

「行ってみようよ!」

「うん、いいよ」


2人は並んで歩き出す。小屋の前までくると立ち止まり、小屋を見上げた


「意外と大きい小屋だね!」

「"大きい"小屋ってなんか矛盾してない?」

「じゃあ家?それにしては小さいと思うけど」

「どこからどこまでが小屋なんだろう?」

「知らなーい!ねぇ、中入ってみよ!」


ユウはすぐさま扉を開け、中に入っていった


「いつも行動が早すぎるよ」


レイは少し遅れて小屋に入った。

すると、天井に照明があり、中は明るかった。そして木の匂いが広がっている


「わー!いい匂い!」

「ほんとだ!僕この匂い好きだよ」

「ほんと?!私も好き〜!」


2人はテンションが上がり、持っていた荷物を降ろすと小屋の中を歩き回る


「広いね〜」

「ねー!走り回れちゃうよー!」


ユウは、レイの周りを1周駆け回る。そしてレイの目の前で立ち止まり、笑顔を向けた


「ねぇ!ここに相談所つくろ!」

「えっ、勝手に大丈夫なの?!」

「きっと大丈夫だよ〜!こんな森の奥にある小屋なんて人来ないでしょ!」

「そうかもだけど…」


もしかしたらここを休憩所にしている人がいるかもしれない。もし自分たちが霊だとバレたら騒ぎになるだろう。それに、利用する時はお金がかかるかもしれない


「勝手に使うのはよくないと思うよ…?」

「うーん、じゃあスマホで調べちゃお!」


ユウはポケットからピンク色のスマホを取り出す。半霊界から持ってきたらしい


「人間界で使えるのかな?」

「やってみないとわからない!」


ユウはスマホの電源を入れる。すると、画面が開き、パスワードの画面も問題なく出た


「おー!使えるみたい!」

「じゃあ最初から使えば良かったじゃん」


そうすればおそらく今頃は森の中から出られていただろう


「まぁまぁ!過ぎたことはどうしようもないから気にしなーい!」

「そうだね〜」

「あっ!出てきた!」


ユウは検索結果をレイに見せた


「へー!ここ、宝眞ほうまちょうっていうところなんだー!」

「なんか聞いたことある…ってかまたかっこいい名前だね」


この町はかっこいい名前が多いのだろうか。レイはそんなことを考えていると、ユウが「あっ!」と声を上げた


「この小屋使われてないらしいよ!」

「ほんとだ、近づく人もいないんだね」

「じゃあ使えるかもだね!」


ユウがスマホを閉じようとした時、レイはある文字が目に入った


「ねぇ、心霊スポットとして有名って書いてない…?」

「え?」


ユウはスマホを閉じようとした手を止め、再び画面を見る


「ほんとだー!だから住民はこの森に近づかないようにしてるらしいね!」

「大丈夫なのかな?」

「私たち、一応幽霊なんだから大丈夫でしょ!この町の町長さんにこの小屋使っていいか連絡してみるね!」


ユウはそう言って、小屋から出ていった




数分後、ユウが小屋に入ってきた


「どうだった?」

「この小屋勝手に使っていいって!」

「よかった!町長さんびっくりしてなかった?」


すると、ユウが笑い出した


「びっくりしてたよ〜!この小屋使うの?!みたいな感じで戸惑った喋り方だった!」

「そりゃあそうだろうね。なかなか心霊スポットのところ使いたいなんて言う人いないよ!」


そう言ってレイも笑った

数秒2人で笑い合った後、パンッとユウが手を叩いた


「よし!これで私たちの住む場所が決まったね!」

「こんなスムーズに決まるとは思わなかったな〜」

「私もびっくりだよ〜!」

「あのゲートがこの森に繋がってくれたおかげだね」

「そうだね!」


2人は、小屋を見回すと笑みを浮かべる


「今日からここは私たちの家なんだね!」

「うん、そうだね!」

「それじゃあ、荷物整理しちゃおっか!」

「あぁそうだ、この荷物たちがあったんだ」

「もー、レイくんしっかりしてくださーい!」

「すいませーん」


2人はそんな会話をして笑いながら、お互い持ってきた大きなバッグを開き、荷物整理に取り掛かった

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