第8話
中沢が目を覚ますと、そこは埃塗れのコンテナのような箇所だった。
解剖台のようなものの上で、腹部を抑えながらゆっくりと起き上がる。
「あ…意識戻った?大丈夫でしたか…?」
そう声をかけてきたのはあの眼鏡の男─ではなく別の人物だったようで、そちらを見るとそこには見知らぬ男が立っていた。年齢は30代後半といったところだろうか?身長が高くスキンヘッドの頭にガタイも良いため威圧感があるものの、どこか気弱そうな印象を受ける男だ。しかし今はそんな事よりもこの状況から抜け出すことが先決だろう。
「てめぇも、アイツの仲間か?」
「違います!逆です、俺は…えっと、あなたを助けたんです。ほら、見てください。おなかのとこ」
男に言われた通り、中沢が自身の下腹部を見ると血は滲んでいるものの、しっかりと包帯が巻かれている様子が見て取れた。
「あなたが…その、眼鏡?に撃たれたのを、俺が応急処置したんです」
「……そうかよ。で?お前は誰なんだ?」
中沢がそう聞くと男は少し困ったように笑いながら言った。
「極道の世界で組長を勤めている、竜安寺薫…と申します」
そう言って彼が差し出した名刺には確かに名前や団体名などが書かれており、どうやら嘘ではないようだ。判断する中沢だったがそれでも警戒を解くことはない。
「それで、その組長さんが何の用だよ」
「……その、実はあなたに謝らなくてはいけないことがあって」
中沢は訝しげな視線を竜安寺に向けるが、彼は慌てて首を横に振った後続けた。どうやら命を奪うつもりではないようだ─むしろ寧ろ助けてくれると言っているのだが中沢はその言葉を信用出来なかった。何せ今まで何度も裏切られ続けてきたのだから当然と言えば当然のことだろう。
「この度は、ウチの若衆があなたに無礼を働いてしまって、大変申し訳ございませんでした!」
竜安寺は額を地面に勢いよく擦り付けるようにして、土下座をしながら謝罪をする。その姿を見た中沢は思わず呆気に取られてしまったものの、すぐに我に返り言った。
「別に……お前の部下がやった事だろ」
「いえ!それでも!これは俺達の問題ですから!」
竜安寺は必死になって訴えかけるように言う。その瞳には嘘偽りのない真っ直ぐな光が宿っているように見えたため、中沢は少しだけ警戒を緩めたのだった─しかし完全に信用する訳ではなくあくまで様子見といった形ではあるが。
「……で?俺に何をしろって」
「ぜひ、アイツに報復…というか、けじめを取らせてやってほしいんです。」
そうして、竜安寺が指差した先には眼鏡の男が中沢よりも酷い殴打によって形を保てない程大きく腫れあがった顔の状態で天井から吊り下げられていた。
「傷を治して、万全の準備が整ったら!また、会いましょう!」
「な……お、おいちょっと待てよ!!」
竜安寺はそれだけ言うと足早に立ち去ってしまった。残された中沢は一人呆然としていたが、すぐにハッとなり慌てて叫んだものの既に竜安寺はなく、眼鏡の男と二人で取り残された事実に舌打ちをするしかなかった。
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