第3話
─数日後
新聞を何度も見返し、眉をひそめた。一面を埋め尽くすのは、昨日起きた都心爆破事件の報道。『都心爆破陰謀事件』という大見出しと共に乗せられた服部慎一郎の選挙事務所から燃え上がる炎の姿と、逃げ惑う人々の姿。そして最後にその現場に火傷だらけで運ばれる犯人と推測される男の写真が載せられていた。
「かぁーっ、こんな時期にこんな物騒な事件が起こるなんてなあ。」
バーテンダーは、カウンター越しに中沢の姿をじっと見つめた。
「なあ、中沢。この犯人ってよ…お前じゃねえのか?」
「…俺だったらどうするんだ?」
そう言いながらニヤリと笑うバーテンダーに、中沢は目を細めながらそう尋ねた。すると彼は手をヒラヒラさせながらフッと笑みをこぼした。
「いや別に?ただ俺は、お前がそんなつまらない事をするような奴だとは思ってねえだけだよ」
「なんだそりゃ…」
相変わらずふざけた男だな、と思いつつ中沢は微妙な表情を浮かべ
「いや…別に俺は何とも思わん。せいぜい、爆破されるぐらいだし。イカれた過激派が気に食わないからって攻撃でもしたんだろ」
「嫌な世の中だ、ったく人騒がせな犯人もいるもんだなあ。」
バーテンダーはそう言いながらボリボリと頭を掻いた。
「それより、例のブツは?」
中沢の言葉にバーテンダーは待ってましたと言わんばかりに、ポケットから小さな袋を取り出した。その中身を確認すると、中沢はニヤリと笑みを浮かべる。
「ああ……ありがとうな。」
そして彼はカウンターに札束を置くと、そのまま出口へと向かう─。
「おい!中沢!!」
背後から聞こえる声を無視して、中沢は店を出た後すぐに車に乗り込んだ。そしてエンジンをかけるとアクセルを踏み込み、勢いよく発進させる。カーステレオから流れる彼が愛してやまないR&Bの歌手の歌声が車内いっぱいに広がり、中沢は上機嫌でハンドルを切った。
中沢はふっと息を吐く。あの後、すぐに店を出ていったのが効いたのかバーテンダーは何も追及してこなかった。しかし、このバーのマスターには少々怪しまれたかもしれない。だがまあ……それもどうでもいい事だ。それよりも今は、早く家に帰りたくて仕方がない。幾ら、報酬を詰まれているとはいえど今回は今までとは違い、何の罪を犯したかもわからない”政治家”を目指す男に対しての襲撃を強制的に行わざるを得なかった。
「依頼主は絶対、が俺のモットーだしな…」
自分に言い聞かせるように中沢は一人呟いた。しかし、それにしてもあの時の快感を思い出すと再び興奮が湧き上がるのを感じた。あの服部という男の顔!今でも鮮明に覚えている。目の前で自分の部下が燃え盛る炎に飲み込まれる光景を目の当たりにしたあの男の表情は恐怖で歪んでいた。そして自分はその様子を一部始終見ているだけで良かったのだから、これほど楽な仕事はなかっただろう。
そして彼は、携帯の電源をつけ連絡先から一つの番号を入力し耳に当てる。
『─おう、 中沢だ。ご依頼通り、爆破してやったよ。……ああ、もう見た?なら話は早い。お前、酒おごってくれる約束だったよな?あの、いつものバーで落ち合おう。いろいろ言いたいことがあるんでね、じゃあまた後で。じゃあな』
そう言って通話を切ると、携帯を助手席へと放り投げた。そしてふぅーっと息を吐き出す。
─これで自分の任務は終わった。しばらく休暇でも貰おう。
そんな軽い気持ちで、中沢は宵闇へと誘われていくのだった。
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