「イマイチ出来がビミョ〜なアンチ・ポリコレAI」顛末記
@HasumiChouji
「イマイチ出来がビミョ〜なアンチ・ポリコレAI」顛末記
「お前さあ、まだ、時間は有るから、今からでも卒論のテーマ変えろよ」
私は、卒論が巧くいってなくて私に相談に来たらしい研究室の学部生に、まずは、そう忠告した。
「いや……ですけど……SNSのフォロワーさんに、やるって宣言……」
「いい加減にしろ、まだ、間に合うぞ」
「でも、先輩、何で俺の卒論をそんなに……」
「あのなぁ……ただでさえ、最近はAI関係の研究で変な事やったら、大学の倫理委員会からクレームが来るんだぞ。いくら学部生の卒論でも、あのテーマはマズいだろ」
「いや、俺は……そう云う昨今の風潮に……」
「いい加減にしろ」
ウチの研究室はAI関係の大講座の中でも、画像識別を主にやってて、このマヌケ野郎の卒論のテーマは「顔の画像から、その人物の人種を特定する」だ。
何かの間違いで、こいつが修士課程の試験に受かったら、最悪は事故死に見せ掛けて(以下、自粛)。
院生だと英語で論文を書く必要が有る。
そして、こんな危険なテーマの論文が英語で発表されたら……一歩間違わなくても、ウチの大学の存続に関わる。
「で、何かおかしいんですよ。このシミュレーション・プログラム」
「どこがだ?」
「どんだけ学習させても、識別率が上がんなくて、調べてみたら、肌の色を識別に使ってないとしか思えない結果が出てて」
「そもそもの問題だけど、何で、お前が作ったプログラムの事を私に聞く?」
「実は……研究室のサーバに有った先輩が学部の頃の卒論用のプログラムを……」
「阿呆かッ‼」
「……すいません……」
「あれ流用したら、肌の色なんて識別に使う訳ないだろ……防犯カメラとかを想定した汎用のプログラムなんだから」
「え? どうしてっすか?」
「あのなあ……人間が自分の目から得た情報は、無意識の内に脳内で色んな補正をしてるの。だから、明るい所でも、暗い所でも、同じ人物の肌の色は同じに見える。でも、防犯カメラなんかは、そんな補正はしてないし、どう補正するのが最適解かも判んない。もちろん、同じ奴が同じ防犯カメラに映ってても、日付や時刻でそいつの肌の色は全然違った色で記録される筈だ。純粋な明さに、光源がどこかとか……更には、同じ場所でも、メインの光源が太陽光か電灯かが違って来るだろうけど、太陽光と電灯じゃ、同じモノを照らしてても、カメラに映る色の白さや黒さだけじゃなくてRGBの割合もビミョ〜に違ってくる事さえ考えられるだろ?」
「じゃあ、どうしてるんですか?」
「輪郭だけしか識別に使ってない」
「へっ?」
「前処理として、顔や目や鼻や口の輪郭を抽出して、他の余計な情報は全部捨ててる」
「え……えっと……それじゃ……え? まさか?」
「だから、私のプログラムを流用して作ったプログラムで、肌の色なんて考慮してる筈は無いだろ。言ってみれば、撮影した画像を線画に変換してから、それ以降の処理をやってんだから。線画にする際に削ぎ落された情報は一切使ってない」
「そ……そんな……」
「お前、この3ヶ月間、卒論が全然進んでなかったのは、まさか、それが原因なのか?」
「やっぱり駄目でした。肌の色を識別に使っても、使わなくても」
「だから、3ヶ月前に言っただろ」
まぁ、少しはほっとした。
こんな今時、倫理的・コンプラ的にマズいにも程が有るテーマの研究が進んでないってのは、ただ1つ「このマヌケが卒業出来るか?」って問題を除けば「良いお報せ」でしか無い。
「『日焼けした白人』の顔の画像を識別させたら、一気に識別率が下がりました」
「それ、『肌の色』を重視させ過ぎなだけじゃないのか?」
「でも、どれだけ重視させるかの最適値が見付かんなくて……」
「どうする気だ?」
「虱潰しにパラメータを調整して……最適値を見付けます」
あ〜あ……巧くいっても、卒論発表の質問タイムで、当然訊かれるであろう質問に、何て答える気だ、この馬鹿は?
「一応、ウチは人工知能系の研究室なんだから、そっち系の方法で最適値を出すようにしてみたらどうだ? 参考になりそうな論文を後で教えるわ」
そう言った後に、わざと見当違いの論文を教えるべきか、しばらく悩む事になった。
それから3ヶ月、卒論提出まで残り少なくなってきたが……まぁ、最悪はデータ捏(一部自粛)まで検討せざるを得ない状況から、奇跡的に……実用としてはアレだけど、学部生の卒論としては許されるか、というレベルの識別率を叩き出した。
まぁ、こんな倫理的にマズい研究で「実用性が十分に有る」レベルの識別率が出たら、それは、それで頭が痛い話だが……。
「うわああああ……そんな馬鹿なぁ〜ッ‼」
と思っていたら、ある日、そろそろ晩飯にでも行くか、って時間帯に、あの阿呆の悲鳴が轟いた。
クトゥルフ神話の邪神でも現われたか、自分が殺した相手の幽霊が目の前に出て来たか、って感じの悲鳴だった。
「おい、どうした?」
「そ……そんな……最後の最後で……こんな事に……もう卒論の期限には……間に合わな……」
「だから、何が起きてる?」
「そ……それが……こんなオチになるなんて……」
この阿呆が使ってるPCに表示されてるモノを見てみると……。
「おい、お前、生きた現実の人間用の画像識別プログラムに、何で、大昔のアニメのキャラの画像を食わせてるんだ?」
「SNSの友達から、そもそも、これが目的だろと言われて……」
「巧く行く訳ねえだろ。あと、そのSNSのダチとは縁を切れ。全員、今すぐブロックしろ。もしくは、お前のSNSのアカウントを消せ」
「でも、何で……こんな……事に……?」
「だから、さっきから言ってるだろ。生きた現実の人間用の画像識別プログラムに、大昔のアニメのキャラの画像を食わせたら変な結果になるに決ってるだろう、って」
ウチの研究史上最アホ級の阿呆のPCの画面に表示されているのは……昔のディ○ニー・アニメのプリンセスと、実写化された時の主演女優達だった。
白人という設定のディズ○ー・プリンセス達は、1人残らず、白人以外の人種だと判定されていた。
まぁ、そりゃ仕方ない。
さっきから、この阿呆に言ってる通り、生きた現実の人間用の画像識別プログラムに、大昔のアニメのキャラの画像を食わせたら変な結果になっても、おかしくない。
でも……画面に表示されているディ○ニー・プリンセス達は全員、ある共通点が有った。
1つは「白人って設定なのに、白人以外の女優が演じた為にネット上で炎上した」キャラだって事。
もう1つの共通点は……こっちは単に偶然だと思うけど……この阿呆が作ったプログラムは……全員、実写版の女優と同じ人種だと判定していた事だった。
「イマイチ出来がビミョ〜なアンチ・ポリコレAI」顛末記 @HasumiChouji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます