第19話 相川

次の日、この時の出来事はニュースとして全国に知れ渡った。


足立区の41歳無職の男、民家に立て篭もり、住民一人を刺殺。


男は殺人罪で逮捕されるが、ひどい錯乱状態にあり、弁護人は責任能力の有無を論点に検察と争う姿勢。





 4月。この春小学生になる相川の娘は入学式を迎え、親子三人で立川の帰り道を歩いていた。


「ねえあなた見て。ここ建て替えるのね」


そう妻に言われて相川は、広大な建設予定地に目をやった。


「本当だ。何があったっけ?ここ」


「それよりも、新しいマンションが建つのかしら。ちょっと見てっていい?」


「ええ? …… ……ヒューマニテクス・エコマネージメントセンター?

 マンションじゃないみたい。残念だったね」


すると娘が走ってやってきた。


「ねえパパ。あれなんて読むの?」


「なんだい?」


「あそこ。あの電信柱に何か変なのが書いてある」


「ええ?」


相川は娘に引っ張られた。

確かに変なシールが貼ってある。誰かのしょうもない悪戯だろう。

……

……いや待て、どこかで見たことあるような?

そのシールは、10センチ四方で、

青い五芒星の上から赤い一の字が描かれており、それを上下から挟むように言葉が書いてあった。


「如実了、時至り、吾等準備すべし」



……くっだらね。相川は視線をシールから外し、足元の花束を見た。


電信柱の下に、花束が手向けてある。


あれ、こんなところで事故なんていつ起きたんだ?


花束の奥には写真が飾ってあった。


別に気にするようなものではない。……気にするようなものではないが、写真からただならぬ気持ち悪さを感じ、思わず相川は写真を拾い上げてしまった。


 それは自分と、娘の写真だった。手を繋いでいる。後ろ姿だから確実にそうだとは言い切れない。しかし……自分の娘の後ろ姿を見間違えるわけがないのだ。


「なあにそれ?」

「見るな!!!!!!!!!!」


思わず大きな声を出して、娘を泣かせてしまった。


「あなたどうしたの?」


心配そうに妻が声をかけた。


「あ、いや…… なんでもない。ちいちゃんごめんね。なんでもないから。……そろそろ帰ろう。日が暮れちゃう」


相川は、泣きじゃくる娘の手を、強く、

強く握った。               


  了


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