作者様自身が仰る通り、本作には化物も幽霊も登場しませんが、故にこそ本御作には、斯様な「化物」や「幽霊」と言った恐怖の表象を我々の心象に暗々裏に育んだ"原風景的恐怖"が存するように、私には思えます。
これはまさしく、作者様の人間心理への精通が成し得た業と存じます。
「化物」や「幽霊」。斯様な恐怖そのもののモティーフを通して"ホラー"を表現することは比較的容易いことでしょうが、恐怖の原理、恐怖の故郷を発見し、それを表現するに於いては、それら"恐怖そのもののモティーフ"は最早単なる夾雑物に過ぎぬことを(それこそある意味で滑稽なものに過ぎぬことを)、本御作を前に、我々は思い知るのであります。
殊に、ラストの子供たちのシーン……
恐怖の故郷もまた遠きにありておもうという小景に催される(それこそ)恐るべき異情に、私は戦慄を禁じ得ませんでした。