ハチミツ色の日々【改稿版】
無月弟(無月蒼)
第1話 はじめましてご主人さま
いつからだろう。
気が付けばボクは、その女の子のことが大好きになっていた。
おっと、まずは自己紹介をしなくちゃね。
ボクの名前はハチミツ。
フサフサなこげ茶色の毛をした、人間がゴールデンレトリバーってよんでいる種類の犬なんだ。
さて、そんなボクには大好きな人がいる。
それはボクの、ご主人さまだ。
ボクの一番古い記憶はペットショップの、四角くて白い、ガラスはりの箱の中にいたとき。
箱の中はそんなに広くなかったから、走り回って遊ぶことなんてできずに、ボクはお昼寝をしてばかりだった。
だけどそんなある日、じっとボクのことを見つめる女の子が現れた。
ガラスごしにじっとこっちを見ている、小さな小さな女の子。
あんまりじろじろ見てくるものだから、ボクもつい見つめ返して、少しの間にらめっこをしていたんだ。
そうしていると、女の子のお母さんがやってきた。
「あらあら、ずいぶん熱心に見てるのね。その子のこと、気に入っちゃった?」
「……うん」
返事をしながらも、女の子の目はボクの方を向いたまま。ボクはうれしかった。
気に入ったなんて言われたのは、はじめてだったから。
ボクがありがとうって伝えたくて「わん」って鳴くと、その子はパアッと笑顔になった。
「わぁ! この子、とってもかわいい!」
それから女の子のお母さんが、いつもボクにごはんをくれているお兄さんと何かを話すと、お兄さんはボクを箱から出してくれた。
そしたら女の子は、キラキラ目をかがやかせる。
「モフモフだー! さ、さわってもいい?」
「どうぞ。やさしくなでてあげてくださいね」
「わ~い!」
よろこんだ女の子は、やさしくボクの頭をなでてくれた。
女の子はとてもうれしそうだったけど、うれしいのはボクも同じ。
だってこの子、とってもいい匂いがするんだもん。
ボクは女の子に頭をこすりつけて、精一杯の愛情表現をする。
「あはは、くすぐったいよー。あ、尻尾ふってる。やっぱりかわいいなー」
しばらくそうしてじゃれあった後、女の子はお母さんにこう言った。
「きめた。アタシ、この子がいい!」
なにがいいのかはよく分からなかったけど、なんだかとってもうれしい予感。
女の子のお母さんもニコニコわらいながら、そっとボクをなでてくれる。
「それじゃあ、名前をつけなくちゃね。なにがいいかしら?」
「うーん……ハチミツ! この子、ハチミツみたいな色をしてるもの。キミの名前は、今日からハチミツだよ」
ハチミツ……。とっても甘そうで、良い名前。
ほどなくしてボクは、住みなれたペットショップをはなれて、女の子の家でくらすことになったんだ。
女の子の名前は、カスミちゃん。
カスミも、カスミちゃんのお母さんもお父さんも、こころよくボクをむかえてくれた。
「今日からここか、キミのおうちだよー。ハチミツ、これからよろしくねー」
カスミちゃんはわらいながら、ボクをなでてくれて、ボクもうれしくなって、尻尾をブンブンふっちゃった。
こうしてカスミちゃんは、ボクのご主人様になったのだ。
ボクはいつもにこにこ笑っているご主人様のことが大好き。
そしてご主人様も、きっとボクのことが大好きなの。
あれからずっと、ボクたちは仲良し。
ご主人様、ボクはずっと、ご主人様と一緒にいるからね!
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