第5話 がんばってね、ご主人さま
セミさんがミンミン鳴く夏が来て、しとしと雪が降る冬がすぎて。
ボクは変わらず、主人様と仲よく暮らしいてる。
だけどご主人さま、高校生になってから、悩むことが多くなった気がする。そういえば前に、大人になると悩みがふえるんだって、ご主人さま言ってたっけ。
人間って、大変なんだなあ。
ボクじゃなにもできないけど、せめてそばにだけはいてあげたい。
けど、いつまでもいっしょにいられるわけじゃないってことも、ちゃんと知っている。
ご主人さまは高校を卒業したら、遠くの学校に通うんだって。そのためには、この家を出て行かなくちゃいけない。
今までみたいに、ご主人さまと暮らせなくなっちゃうんだ。
「ハチミツといっしょにいられるのも、後少しかあ……」
さみしそうな目をしながら、背中をなでてくるご主人さま。
ボクも会えなくなるのはさみしいけど、ご主人さまが決めたことなんだから、行かないでなんてワガママは言わないぞ。
そのかわりご主人さまが行っちゃうその日まで、いっぱいいっぱい遊ぼうね。
それからご主人さまは前にも増して、ボクといっしょにいてくれるようになった。
きっと今のうちに、少しでも多く遊ぼうとしてくれたんだと思う。
じつはこの頃になると、ボクは少し歩いただけでも疲れるようになってて、前ほどおさんぽも出来なくなっていたんだけど。
それでもご主人さまといっしょにいられる時間は、楽しかった。
いつもの公園に連れて行ってもらった時は、いつかの男の子がいて、いっしょに遊んだよ。
男の子は中学生になっていたけど、変わらずにボクを可愛がってくれる。
「ハチミツったらごキゲンだね。尻尾ふってる」
ボクは男の子とご主人さま、二人とたくさん遊んだよ。ご主人さまがもうすぐ遠くに行っちゃうのは寂しいけど、今はとっても楽しいや。
やがて春が来て、ご主人さまが家から出て行く日がやって来た。
「行ってくるねハチミツ。良い子にしてるんだよ」
そう言ったご主人さまは、心なしか不安そう。今までとは違う場所で、しかも一人で暮らすらしいから、当り前だよね。
だけどご主人さま、元気を出して。
「くすぐったいよ……ガンバレって言いたいんだね。時々は帰ってくるから、その時はまたいっしょにさんぽに行こうね」
うん。ご主人さまが返ってきた時は、ボクいっぱい遊ぶ。
そうしてご主人さまは、住み慣れた家を出て行っちゃった。
やっぱり会えなくなるのはさみしいけれど、ボクは笑顔で見送ったよ。
行ってらっしゃい、ご主人さま。お勉強がんばってね。遠くに行っても、元気でね。
ボクはなにがあっても、ご主人さまの味方だからね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます