番外編第2話 お家に帰ろう、ご主人さま
ミーンミーンと、セミさんがせわしなく鳴いている。
季節は夏。
毎日暑い日が続いてて、ボクは長くのびた毛を脱ぎたいなあ、なんて思ったりしていた。
でも、暑さでバテてちゃダメだよね。だ
ってこれから、久しぶりにご主人さまと会うんだから。
今日からお盆。
向こうに行っちゃった人たちも、この間だけは里帰りするんだよ。
大好きな人や、懐かしい家がある故郷だもん。
やっぱりたまには帰りたいって思うよね。
ボクもキュウリで作ったお馬さんをパッカパッカと走らせて、お家に向かって一直線……のはずだったんだけど。
帰る途中、公園の前に差し掛かった時、ボクは立ち止まった。この公園は生前、よくご主人さまとおさんぽをしていた所だ。
とっても広い公園で、中を見ると、さんぽしている犬とそのご主人さまの姿がチラホラある。
みんなとっても仲良しさんで、まるで昔のボクとご主人さまを見ているみたい。
ふふふ、なつかしいなあ。楽しそうにさんぽしているみんなを見ていると、ボクまで幸せな気持ちになる。
ボクも久しぶりに、おさんぽしたくなっちゃったよ。そうだ、今日はちょっとより道してから帰ろう。
ボクはキュウリのお馬さんを下りると、トコトコと公園の中へと入って行った。
この公園はとても広くて、楽しく走り回っている子もいれば、ご主人さまの投げたフリスビーを追いかけている子もいる。
ボクも生きてたころは、よくあんな風に遊んでもらったっけ。
昔を思い出しながら、懐かしい公園のさんぽを続ける。
おっと、前から人が歩いてきた。ボクはわきに移動して、道をゆずる。
今のボクの姿は、人間には見えない。
だからぶつかりそうな時はこうやって、ボクがどかなければいけないのだ。
え、面倒じゃないかって?
平気平気。もう慣れっこだもん。
それに姿が見えないおかげで、助かることもある。
ボクが一人でおさんぽをしていると、ふつうなら迷子と思われちゃうけど、見えないから勘違いされることは無いんだよ。
だからこんな風に、堂々とおさんぽができるのだ。
姿が見えたら、こうはいかないもんね。
公園内を見回してみても、犬たちは皆ご主人さまといっしょにいる。
一人でいる子なんて、ボクくらいのものだろう。
そう思っていたんだけど……。
あれ、前から一人で、トコトコ歩いてくる犬がいる。
焦げ茶色の長毛で、ペタンとしたお耳。
まだ小さいけどあれは、ボクと同じゴールデンレトリーバー。
あの子は、メープルちゃんだ!
メープルちゃんは少し前にご主人さまが飼い始めた、ボクにとって妹みたいな女の子。
だけど、どうして一人でいるんだろう?
首をかしげていると、ボクに気づいたメープルちゃんがこっちに向かってかけてきた。
この子はボクの姿が見えるから、どうやら前に会った時のことを覚えていたみたい。
ボクもメープルちゃんにかけより、お話をしてみる。
メープルちゃんメープルちゃん、こんな所で一人でどうしたの?
えっ、ご主人さまたちとおさんぽしていたら、途中ではぐれちゃったの?
ダメじゃない、迷子になったらいけないって、この前教えたでしょ。
くぅ~ん。
うんうん、ちゃんと反省しているみたいだね。
よし、もう大丈夫だよ。
ボクがちゃんと、ご主人さまたちの所まで連れていってあげるから。
きゃん、きゃん!
心配しなくていいよ。
なにせこの公園は、ボクにとってお庭みたいなものだから。
何度も来ていたから、ご主人さまがどこにいるかくらい検討がつくんだよ。
さあメープルちゃん、ちゃんとボクに着いてくるんだよ。
わんっ!
先導するボクの後ろを、メープルちゃんは素直に着いてくる。
って、ああ! 水道の方に行っちゃダメだよ!
暑いのはわかるけど、今はご主人さまと会うのが先!
どのみちボクたちじゃ、蛇口を捻れないでしょ。
くう~ん。
もう少し、もう少しだからね。
あ、ほらほらメープルちゃん、あれを見て。
きゃん!
ボクたちの視線の先には、ご主人さまとその旦那さんの姿があった。
ほら、言った通りでしょ。
ボクにかかれば、ご主人さまの居場所くらいすぐに分かるんだよ。
きゃん、きゃん!
うれしそうに鳴き声を上げるメープルちゃん。するとご主人さまたちも気づいて、こっちにかけてくる。
「よかった。メープルいた」
「ダメじゃない、勝手にどこか行ったら。探したんだよ」
くう~ん。
まあまあご主人さま。
メープルちゃんだって反省してるんだし、許してあげて。
「でも本当に良かったよ。迷子になったのはいけないけど、戻ってこれたのはえらいよ」
「本当だよ。メープルはかしこいね」
頭をなでられて、メープルちゃんもごキゲン。
連れてきて良かった。
みんな笑顔になって、ボクもうれしい……。
「本当に凄いね。昔ハチミツと迷子になった時は戻るどころか、知らない場所に連れていかれたんだもの」
……え?
「そんなことがあったんですか?」
「あの時は大変だったよ。ハチミツについていったら、余計に迷っちゃったんだもの。だけどメープルは賢いよね。ハチミツよりも賢いよ」
ち、違うよ!
たしかに昔は失敗しちゃったけど、今回はボクが連れてきてあげたんだってば!
きゃん、きゃん!
ほら、メープルちゃんもそうだって言ってるよ。
だけど悲しいことに、二人にはボクらの言葉は分からないのだ。
ガックリと肩を落とすボクの頭を、メープルちゃんが申し訳無さそうになでてくれる。
ううっ、メープルちゃん。
ボクのことを分かってくれるのは君だけだよ。
そう思っていたけど……。
「けど案外もしかしたら、ハチミツがここまで連れてきてくれたのかも。今はお盆だから、帰ってきてるだろうし」
……おおっ!
旦那さん、えらい!そうそう、ボクここにいるよ!
「そうかも。ハチミツのことだから、今でも私たちを見守ってくれているだろうし」
「きっとそうですね。ありがとうハチミツ……」
そうして二人は、遠くのお空を見上げる。
たぶんそっちにボクがいるって思っているんだろうけど、残念。
本当のボクはすぐ横でお座りしているよ。
わんっ、わんっ。
あ、メープルちゃんがお腹すいたって言ってる。
するとご主人さまたちもそれがわかったよう。
「お腹すいたの? それじゃあ、帰ってごはんにしようか」
きゃん、きゃん!
ごキゲンなメープルちゃん。
よし、ボクもいっしょに着いていこう。
ご主人さまたちが歩き出し、メープルちゃんもボクも後へと続く。
久しぶりにご主人さまたちとおさんぽできて、ボクもうれしい。
メープルちゃんを加えた4人で歩くのははじめてだから、もっとうれしい。
みんな仲よく、お家へ帰ろうね♪
おしまい🐾
ハチミツ色の日々【改稿版】 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます