第7話 ずっと大好きだよ、ご主人さま
あれから、どれくらい時間が過ぎただろう?
ボクが今いるのは、たくさんの犬や猫たちが眠っているペット霊園。
今のボクの姿は人間には見えなくて、声も届かないけれど、こうして意識だけはある。
ボクはここで他の犬や猫と、毎日楽しく遊んでいるよ。
ご主人さまは元気にしてるかなあ?
ご主人さまは年に数回、帰省した時には必ずここに来てくれて、今なにをしているかを教えてくれる。
ボクはいつも、それを楽しみにしているんだ。
次に会えるのは、いったいいつかなあ?
今年はお正月とボクの命日にお参りに来てくれたけど、五月の連休は 帰ってこなかったみたい。
そうなると、次はお盆かな?
今は六月。二カ月先が、今から待ち遠しいや。
今日は梅雨の中休みで、ポカポカといいお天気。
何となく空を見上げてみると、蝶々が飛んでいる。
そういえば昔、ご主人さまと二人で追いかけたことがあったっけ。
なつかしい日のことを思い出しながら目で追っていると、蝶々が飛んで行った先から、誰かが歩いてくる。
あれは……。
「久しぶりだね、ハチミツ」
ああっ、ご主人さま!
そこにあったのは、紛れもないご主人さまの姿。
もうすっかり大人の女の人になっているけれど、幼かったころの面影はバッチリ残っている。
わーい、わーい。ご主人さまだご主人さまだー!
今日はどうしたの、長いお休みでもないよね?
なぜ今帰ってきたのかは分からないけど、次に会えるのはまだ先だと思っていたボクは大喜び。
ご主人さまにはボクの姿は見えないけど、尻尾をふってお出迎えする。
「ハチミツ、今日は大事な報告があるの。この子のこと、覚えてる?」
するとご主人さまの後ろから、一人の男の子……ううん、男の人が現れる。
あれ、この人どこかで見たような気がするなあ。
「こんにちはハチミツ」
彼がそう言った瞬間、ボクはハッキリと思い出した。
この子、よくボクと遊んでくれた、ご主人さまと仲良しの男の子だ!
最初に会った時はまだ小学生だった男の子はすっかり成長していて、見違えちゃったよ。
だけどとってもいい匂いがするのは、今も相変わらずだ。
思わぬ登場にビックリしていると、ご主人さまが言ってくる。
「私たち、結婚するの。それで、どうしてもハチミツに伝えたくて」
結婚? ええっ、ご主人さま結婚するの? その男の子と?
そっか、結婚かあ。
出会ったばかりの頃は小さかったご主人さまが結婚なんて、とってもとってもビックリだよ。
けど……ふふふ、ご主人さま幸せそう。もう泣いていないんだね。ちゃんと前に向かって、進めているんだね。
男の子と笑い合うご主人さまを見ると、ボクはうれしくなってきた。
この子なら、ご主人さまを泣かせたりしない、きっと幸せにしてくれる。
だって二人は、とっても仲良しなんだから。
「ハチミツは、僕のことを認めてくれるかな?」
「大丈夫だよ。ハチミツもきっと、おめでとうって言ってくれるよ」
もちろんだよ。
二人とも、とってもとってもおめでとう。
それから二人はボクのお墓の周りをお掃除して、花をそえてくれた。
ふふふ、ありがとう。
ボクはもう同じ時間は過ごせないけど、二人が笑う時はボクだって笑うし、うれしい時はボクもうれしい。
ボクの心は、二人とずっといっしょだよ。
お参りをすませて帰る二人に向かって、ボクは大きく「わん」って鳴いてみた。
すると──
「──えっ?」
ボクの声にこたえるように、足を止めるご主人さま。それに、男の子も……。
ボクの姿は見えなくて、声も聞こえないはずなのに。
二人ともふり返って、じっとボクの方を見ている。
「カスミさん、今……」
「八雲くんも聞こえたの? ハチミツの声」
どうしてボクの声が聞こえたのか、どうしてはっきり、ボクのいる方に目を向けられたのかは分からない。
だけどひとつたしかなのは、とっても素敵なことが起きたってこと。
ご主人さまと男の子は目を合わせると、うれしそうに笑い合った。
「私たち、幸せになるからね」
「ハチミツも、見守っていてね」
ご主人さまと男の子はもう一度手を合わせた後、今度こそ帰って行く。
ボクは二人の姿が見えなくなるまで、小さくなっていく背中をずっと見ていた。
来てくれてありがとう。
声が聞こえなくても姿が見えなくても、ボクはいつでもご主人さまのことを想っているよ。
これからも幸せにね。
今までもこれからも、ずっとずっと大好きだよ、ご主人さま!
※この後番外編が2話あります。
引き続きハチミツたちを、よろしくお願いします。
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