白昼夢

sorarion914

DayDreamer

 ——夜が明け切らぬ時刻。




 私はふいに目が覚め、寝苦しさから逃れるように散歩に出た。


 住宅街を抜け、国道沿いの道を歩き、商店が立ち並ぶ一角をひたすら歩く。

 車も僅かに通るが人の姿は無く、暑くもなく寒くもない薄闇の中を漂う。



 どのくらい歩いただろうか……



 背中に太陽の熱を感じて、私は我に返った。

 気が付くと周囲は昼間のように明るく、背後から真夏のような強烈な日差しが照りつけてくる。


 朝日にしては、あまりにも強すぎる光に、私は思わず腕時計を見た。

 時計の針は11:10を指していた。



 はて……?

 そんなに長いこと歩いていただろうか?



 家を出たのは夜明け前だが。

 こんな時間までずっと――気づかず歩ていたのだろうか?


(まさか……)


 あり得ない事態に、私はふと


(今日は何日だろう?)


 と考えた。



 日付が出てこない。

 どこかで記憶が飛んだように、いくら考えても思い出せない。


 私は急いで家に戻ることにした。



 細い路地を歩いていると、辺りが急に暗くなった。

 一瞬で夜中に戻ったようだった。


 その暗い道の先を、1人の女が歩いていた。

 大きな声で歌いながら。

 その様子はまるで、暗い夜道の恐怖を振り払おうとしているかのようだった。


 一心不乱に歌い続ける女を足早に追い抜き、私は手にしていた傘が無いことに気が付いた。


(あ、バスの中に忘れてしまった!)


 だが、そう思って私は首を傾げる。





 ――私は、バスなど乗っただろうか?




 いや、そもそも。


 傘など持っていただろうか?



 訳が分からぬまま家に戻ると、敷きっぱなしになっていた布団に潜り込む。


 すると、ニャーという猫の声がした。

 驚いて布団をめくると、中から一匹の仔猫が這い出てきた。


「……」






 私は猫など飼っていただろうか?





 歪んでいく記憶を噛みしめながら、私は再び深い眠りに落ちた。




 ——そしてまた目覚めるだろう。




 夢現ゆめうつつが繰り返される、夜明け前の世界へと。


 永遠に繰り返す。







 終わりなき白昼夢の中へ。




 ……END




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