第26話

「ユアルーナ」


 声がした。優しい優しい、なつかしい声だ。


「ユアルーナっ」


 弾んだ声がした。今度はヤナの声だ。


 ユアルーナは朝日の中、目をこする。

 きらっと窓から光が差した。


 輝く雪の雪の光を浴びて、またコンコンとドアが叩かれた。


「ただいま、ユアルーナ」

 雪の光で、金の髪が輝いた。


 ドアを開けてよと、もう一度扉を叩く。


 ユアルーナは転ぶように走り、玄関のカギを開けた。


 ターシアスはそんなユアルーナをじっと見ている。

 一歩踏み出し、目を細めて優しく微笑んだ。


「昨日は、なにもできなくてごめん。……帰ってきたよ。もう離れないよ」


 彼の動きは、なぜかスローモーションのように見えた。時が止まったようだった。


「二年間も、よくがんばったね。もう、悲しい思いはさせないよ」


 白い白い雪の中、ターシアスは優しく微笑んだ。


 そっと、ユアルーナに手を差し出してくる。


 ユアルーナが応えると、彼女の手を握ってくれた。


 優しく優しく握ってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪至の夜の眠り 近江結衣 @25888955

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画