2.魔法陣

『魔女掃討』の始動からもうすぐ7年。リアンダは15歳になり、声変わりを終え、子ども特有の甲高い声も出さなくなった頃。世間では騒ぎが起きていた。


「父上!一体どういうつもりですか!?」


リアンダが執務室のドアを勢いよく開け放って言った。


「何がだ」

「なぜ、なぜ戦争を吹っ掛けたのですか!よりにもよって相手はザクセン公国、王国に勝ち目はありません!」


ザクセン公国は、ジーランディア大陸に存在する三大国家の中でもことさら軍事力が高い。

そもそも、ザクセン公国は乱立する小国家を降し、建国したという成り立ちを持つ。といっても、建国してからまだ40年も経っておらず、大した歴史も持たない新興国家である。

にも関わらず三大国家と呼ばれるまでに成長し、内乱で分裂することを防ぎ、国家として非常に安定している。

その建国者の名を、ハインリヒ=ザクセンと言う。息子に位を譲ったものの、未だ衰えを知らず、その影響力も健在だ。

"伝説"が生きる国、ザクセン公国。王国には勝ち目がない。せいぜい相打ちだろう。

だから、戦争を吹っ掛けてはならない。だが──


「ああ、負けるとも」


もとより負けるつもりならば。その仮定は一切の意味を持たない。


「なっ……気でも狂いましたか、父上!」


しかし、騒ぎ立てるリアンダとは裏腹に、国王は至って穏やかだ。そう、穏やかなのだ。執務室にも大した量の書類はなく、戦争の準備に追われてもいない。リアンダが廊下で見かけたイリヤ軍務卿も、焦りの表情はなかった。まるで、全てが予定調和のように。そう、まるで──


(事前に知っていたかのようだ。むしろ、公国と手でも組んでいるように思えて仕方がない)

「まあ、そう喚くな。…そうだな、少しついて来い」


***

「まあ、そう喚くな。…そうだな、少しついて来い」


父上はそう言って背を向け、後ろの本棚をズラした。すると、隠し部屋の入り口が露わになる。早速入る父上を追い、自身も入る。どうやら通路が続いているようだが、そんなことよりも床に目が釘付けになる。


「魔法陣…」


そうポツリとつぶやいた言葉に、父上がこちらを見る。


「知っているのか?」

「いや、知りません。ただ、見たことがあるような…」


いつかの記憶。今は亡き母上が見せてくれた、一冊の本。確かそれは──


「着いたぞ」


父上の言葉に思考が途切れる。ふと周りを見ると、どうやら私たちは階段を下っていたようだ。そこで父上が言った。


「お前にも真実を語るとしよう」と。


赤い瞳が、しかと私を見据えていた。

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『   』 めんどー @men_do

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