【サイドストーリー:第40.5話】・絶対にわかっていない顔だったわ
全世界に向けてヘイト行動をとった親父と、完全に巻き込まれた
「あまぐりでしたか、少々可哀想ではありますね」
「意外だな、ドリアからそんな言葉が出てくるなんて」
あの場を収束させるために回収したドッグタグ。それは、いまのあまぐりにとって生命線とも言える重要なアイテムだった。
しかし、しばらくの間は”ただの犬“となってもらった方が無難なのは確かで、それはみんなの安全にも直結している。
「地球人だった頃に犬を飼っていましてねえ。人間なんかよりずっと接しやすいですから」
「名前は?」
「は?」
「犬の名前は?」
「マチルダ、ですが。なにか?」
名前を聞いて、真顔になる親父。
「……戦車飼ってたのか」
「犬だって言っているじゃないですか!」
「……ぷっ」
「え、今のどこに笑う要素が?」
「いや、名前が、じゃなくてな……」
「お前が『マチルダちゃ~ん』とか呼んでいる所を想像してしまってな」
それはそれでひどい扱いだけど、親父が笑ってしまうのも分かる気が……ぷっ。
「相変わらずひどい人だ」
「でもま、あまぐりは大丈夫だ」
「なにか仕込んでいるので?」
あとになって気が付いたんだけど、親父が作ったあまぐりの犬小屋には、モサモサトーテムポールの破片が使ってあった。
所々に変な模様が刻まれているのはそう言うことだったのか。
小屋に入っているだけで魔力の補充が進む。ついでに琴宮家全体を災害などから守ってくれる、本来の守護像としての役割も兼ねた犬小屋だ。
……モサモサ族、やはりあなどれん。
「それはそれとして、
「なんだ? 俺は猫派だぞ」
「それはどうでもいいんで。あの
これはおいもさんも疑問に思っていた。『魔力量も質もデスショットの半分程度なのにおかしい』と。
当然、親父も疑問に思っていたのだろう。そして、可能性として一つの結論にたどり着いていたらしい。『多分だけどな……』と前置きをした上で話し始めた。
「
「……百鬼はデカい出口を作っただけということか」
一人で呼び出したのではなく、大勢で送りだした。そして出口を開けるだけならそこそこの魔力で足りる。これがドラゴン召喚のからくりだった。
スッキリしたけど、自分でその答えにたどり着けなかったバトラー・ドリアは悔しそうな顔をしていた。
「ちょっと寄り道していくぞ」
言われるがままついて行くと、そこは琴宮家。
「寄り道って、あなたの家じゃないですか。こんなとこにいたら家族が巻き込まれますよ?」
「すぐすむ」
親父が玄関のドアを開けると、そこにはカメラバッグを持った母さんが立っていた。
「今度も長いのですか?」
「ああ、少しばかりな……アカリたちを頼む」
「心得ていますよ」
親父はバッグを受け取ると、母さんをギュッと抱きしめた。
急がなければならないけど、無粋な真似はしたくない。そんな微妙な空気の中、バトラー・ドリアは意を決して声をかけた。
「あ~、あのう。時間が……」
「じゃ、ちょっくら行ってくるぜ」
「あなた、一つお願いが」
「なんだ?」
これがドラマなら、『生きて帰って』とか『無茶はしないで』と送り出す所ではあるけれど……
「あまり変なものを送ってこないでください」
ニコっと笑いながら親父のセンスを否定する母さん。
「ああ、わかった。まかせろ!」
と、走り去りながらサムズアップする親父。……母さんは後日『あれは絶対にわかっていない顔だったわ』とボヤいていた。
「ところで、この先どうするのです?」
「ん~、とりあえず南米にでも行くか」
「そんなところまでなにをしにいくのですか…」
「なんとなくだよ、なんとなく。ノリで行こうぜ?」
「はあ、なんで私はこの人に負けたのだろう……」
親父は『それがわからんうちは俺に勝てねぇぞ』と笑った。
「よっしゃ、待ってろよモサモサ、今行くからな!」
絶対にわかっていない顔だったわ 了
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……そしてしばらくののち、琴宮家には2メートルほどの木の柱が届いていた。
第41話・やっぱりわかってなかったわねぇ 完
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琴宮アカリは黄泉がえりたい。~ゾンビなJKと異世界逃亡者のやんごとなき死体探し冒険譚。幼馴染を守るのは熱血乙女のたしなみです!~ 猫鰯 @BulletCats
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