エピローグ『独占インタビュー』
GBC―Global Broadcasting Corporationの取材グループは長い時間の交渉時間をかけて、現在の連邦残党を率いるグラハム・イェーガー氏(通称、フルミネ)との独占取材に成功した。
以下、GBCの特派員、オリバー・ブルースによる本文。
◇
グラハム氏が取材場所として、指定してきたのはあのヴェルディアの小さな公園だった。
あの『ヴェルディア事変』から4年。原子力空母「カラコルム」が座礁したことで、かの地に住む人々には避難勧告がだされ、立ち入り禁止区域となった。
自身の故郷を焼いた男は、待ち合わせ場所の公園で一人、無人となった街を見下ろしていた。
―グラハムさん、取材を引き受けて頂き、感謝します。
「構わない」
そう答えた氏の表情は、深い皴がきざまれていた。
我々が集めた情報によると、氏は29歳ちょうどのはずだが、それより一回り歳をとっているように見えた。
―単刀直入にご質問します、
何故、故郷を焼いたのですか?
「この国、人々、世界中の軍人たちを守る為だ」
氏は何の抑揚もない声でそう告げた。
私は少し憤った。
事変の直接の死者だけでも300人。その混乱は今でも続き、ヴェルディアの国民達は難民となっている。
―本気で言っていますか?
「ああ。
見てくれ、あのコンクリートから芽生える向日葵を。
あれは四年前には無かった光景だ」
確かに向日葵は見える。人が居なくなり、ヴェルディアの地は自然に侵食されている。だが、一輪の花よりも、岩壁に突き刺さった空母の残骸の方がより目立っている。
―国と人を守る筈だったとすれば、目論見は失敗でしょう?
「あなたには、人の血が流れていないのか? 」
私は虚をつかれた。
まさか、テロリストにそんなことを言われるとは思わなかったからだ。
「皆だ。誰も彼も、人の血が流れていない。
前の戦争で、皆が行けと言うから俺達は戦った。
負けて帰ってきたら、無能呼ばわりだ。
傷ついた兵たちに通院費どころか、絆創膏の一枚すら与えず、全ての責任だけを押し付けた。
結局、あなた方、世間一般は勝利者しか、認めないのだろう」
―そんなことはない。それは戦争の余波で、仕方のない人間の感情だ。
「ならば、我々の感じていた感情は無視してよいものだったのか?
何もせずに怯えていただけの人間達を優先して、無視してよいものなのか?」
―……。
「それに、意味はあった。そうだろう? 」
氏は無表情で、私に尋ねた。
そう。彼のいう通り無意味では無かった。
政策として軍人に対して厳しい態度を取って来たヴェルディアの末路を見た独立国家らは、退役軍人に対する待遇を改めた。
そして、最大の反抗勢力である連邦残党に対抗すべく、多くの国が軍を再建し、彼らが帰る場所が出来た。
「我々の戦いによって、価値観はリセットされる。
戦う者が敬意と名誉を得る。歪んだ時代はリセットされる」
それと引き換えに、軍事的緊張が世界を包んでいるのだが。
しかし、それを語る氏の表情は空虚なものだった。
「我々が戦ったあの時間には、意味があった。
少なくとも、武器を取らずに、戦争に流されるだけのあなた方には我々を否定する権利はない。
これを否定していいのは、我々に正々堂々と立ち向かってくる者だけだ。
違うか?」
◇
曇天、連邦領上空にて。
グラハムは数名の部下らと、汚職に手をそめた政治家を粛正する作戦を終えていた。
連邦残党派の人間は英雄であるグラハムに、前線から退いて欲しかったが、グラハムは一環として拒否した。
地上にいると虚しくて、虚しくて仕方ないのだ。
空に居ても、自分の心臓の鼓動すらも感じられないのだが。
「フルミネ、こちらオスカー。
爆撃部隊を率いていたエレク部隊の反応が消えました。
どうやら撃墜した連中はこちらを追ってくるようです。
だが、このままいけば我々のテリトリーです、逃げ切れます」
「了解した」
「そう言えば、連中の最後の無線で、赤い翼のラファールが見えたと……」
「……!?」
『フルミネ2、敵側に新たな増援だ。
畜生、最悪の増援だ。赤翼のラファールだ』
『連中のトップエースの……こんな時に!』
それはかつて自身の隊長を撃墜し、圧倒的な力で戦争を終わらせた『真の英雄』の機体だった。
グラハムは心臓の鼓動、血のめぐりを久方ぶりに感じた。
グラハムのホーネットは燃料タンクを切り捨てた。
更には、翼端から燃料を吐き捨てた。
「フルミネ、何を!? 帰還する分の燃料が足りなく――」
最大限まで軽くなったフルミネのホーネットは、主翼をしならせ、悪雲をきりさくように旋回し、接近してくるラファールに真っ向から向き直った。
「帰還なんて考えるな」
栄誉と名誉で赤く染まったラファールの翼と、憎悪と血で染まったホーネットの翼が交錯した。
Remain in the Air 取り残された英雄 @flanked1911
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます