警視庁死霊課制裁係

龍玄

第1話 三島女子短大生焼殺事件

 不起訴・不起訴・起訴猶予。民衆党が政権を取ってから世の中、日本の治安悪化の泥沼に陥った。今は立件民主党と名前を変えているが中身は同じだ。司法に携わる者の国籍の箍を外し、外国人の犯罪が軽視され始めた。その背景に法曹界に蔓延る外国人や帰化した者の存在が取り沙汰される。弁護士会の副会長に日本人ではない者が就いたことは、受け入れられない事実だと捕らわれても仕方がない状況だ。司法が外国勢に支配されつつある現状は憂いしかない。

 民意が反映される裁判員裁判では、通常より刑が重くなる傾向に犯罪者は、戦々恐々としていた。しかし、被害者の無念は晴らされない。警死庁死霊課制裁係は、死霊の成仏を成し遂げる部署だ。担当は冴羽潤。黄泉の国と現在を行き来し、事案に対応する。黄泉は地獄に行く者が一時的にいる待合室のような場所だが、閻魔大王の計らいで、生き胆を引き摺り込むことが可能になった。


 さて、今回の事件は…服部純也の起こした三島女子短大生焼殺事件


 「人が燃えている」。男性からの110番通報があった。2002年1月23日午前2時半過ぎだった。場所は、JR三島駅から約3㎞離れた山中の市道路肩だった。

 警察・救急隊員が駆けつけた時、まだ煙が立ち上っていた。遺体は、ところどころ紅い肉片をのぞかせ、あとは黒く焼け焦げ性別の判断がつかないほど損傷が激しかった。拡幅工事用のコンクリートブロックが黒く焼け焦げ、灯油の臭いが漂っていた。   

 司法解剖の結果、被害者は生きたまま火をつけられていた。警察は被害者の身元の解明を急いだ。娘がアルバイトから帰らない、と心配した親から捜索願が出されていた。遺留品と遺体の指紋から山根佐知子さんと判明した。両親の願いは空しくも裏切られた。警察は、その残虐な手口から怨恨説が取り沙汰されたものの、佐知子さんが人から恨まれる話はまったく聞かれなかった。交友関係の線は薄れ捜査は難航した。

 三島女子短大生焼殺事件の捜査は難航した。交友関係は薄く、警察は過去の犯歴を洗った。そこで、服役中の服部純也が容疑者として浮上した。2002年7月11日に服部純也にこの事件の容疑者として名前が上がっている事を告げた上で唾液を提出させた。結果、服部純也の唾液と、三島女子短大生焼殺事件の現場から検出された慰留物のDNAが一致した。静岡県警察は服部純也を重要参考人として取調べを開始し、同日中に逮捕監禁・強盗などの容疑で逮捕した。

 服部純也は2002年1月22日の夜、建設会社の同僚と三島市内の居酒屋で飲食した後、22時40分頃には飲酒運転して沼津市内の自宅へと向かう途中、従業員の集合場所に弁当箱を忘れたことに気がつき、その方向へと再び引き返した。道路沿いを自転車で走行する当時19歳の上智短期大学英語科の1年生・山根佐知子さんを見つけ、ナンパをしようと声をかけた。山根佐知子さんは服部純也から声をかけられたものの、無視してそのまま自転車を走らせた。服部はあきらめずに、車で人気のない暗い場所へと先回りして待ち伏せし、狭い路上で自転車で走行してきた山根さんの前に立ち塞がった。

 服部は山根さんの自転車の前輪にまたがるようにして対峙し、前カゴの部分に両肘をかけるようにして山根さんを逃げられないようにした上で「どこの人?学校行ってるの?名前は?かわいいね、遊びに行こう」などと声をかけた。山根さんは何とか逃げようとしたが、服部は山根さんの自転車を押すようにして自分の自動車の方向へと連れていき、そこで、自転車ごと山根佐知子さんを横転させた。山根佐さんは悲鳴をあげて自転車を置いて逃げようとするが、「静かにしろ」と服部は怒鳴り、山根さんの口を塞いで頭をヘッドロック状態で締め上げるようにして無理矢理車の中へと押し込むと、車を発進させて人気のない山の方向へと走らせた。

 車を走らせながら、恐怖に震えていたであろう山根さんに「俺の顔と車のナンバープレートを見ただろう。警察にチクるなよ。ぶっ殺すぞ」と脅迫し、人気のない山中の場所に車を停車させ、山根さんを脅迫した上で強姦した。性欲を満たすとどこか街中の人気のない場所で山根さんを降ろそうと考え、三島市内まで戻ろうとした時、仲間から電話が入り、「覚醒剤を使用するための注射器を持ってきて欲しい」と頼まれた。この電話で自分も覚醒剤を使用したいという衝動が抑えられなくなり、早く山根さんを解放して覚醒剤を打ちに行こうという気持ちと、山根さんを逃せば警察に通報されて再び刑務所に戻る事になるという考えを抱くようになり、山根さんを殺害して口封じをしようと服部は考えた。

 服部は、1995年、強盗致傷・恐喝・窃盗の容疑で逮捕されて実刑判決を受け、さらに、それが別の覚醒剤取締法違反と道路交通法違反での執行猶予期間中だった事から、合わせて懲役6年の実刑判決を受けており、2001年4月に仮釈放されたばかりだった。

 服部は、どのように山根さんを殺害しようかと考えを巡らせながら、覚醒剤を使用するための注射器を取るために静岡県三島市若松町の実家へと戻った。玄関先に灯油のポリタンクを見つけ、山根さんに灯油をかけて焼き殺そうと思いつき、覚醒剤の注射器と灯油のポリタンクを車に積み込んだ。日付が変わって1月23日の午前2時頃、三島市川原ケ谷字山田山地内の三島市道山田31号道路の拡幅工事の現場に車を停車さた。口をガムテープで塞ぎ、両腕も後ろ手に縛った上で車から降ろし、無理矢理歩かせて、工事現場の未舗装の道路上に無理に座らせると、ポリタンクの灯油を頭から浴びせかけ、「火、つけちゃうぞ」と脅した。山根さんは恐怖のあまり、身動きひとつせず、声も出せなかった。服部はこの様子を「警察に通報しようと考えているのではないか」と思い込み同時に「早くこの女を殺害して仲間の元へ向かって覚醒剤を打ちたい」という衝動が抑えられなくなり、ライターを使って山根さんの髪の毛に火をつけた。「きや~」。服部はしばらくその場に留まり、山根さんの身体に火が燃え広がったのを確認した後に、その場から逃走した。

 事件発覚後の現場検証などから、山根さんは全身火だるまとなって現場を転げ回り、着火地点から数メートル離れたコンクリートブロックの間でうずくまるような体勢で息絶えた事が分かった。

 服部が山根さんに手を掛けた約30分後、現場を通りかかったトラック運転手が人が燃えている事に気がつき110番通報した。山根さんを殺害後、服部は一旦実家へと戻って灯油のポリタンクを元の場所へと戻し、匂いで仲間に気がつかれないようにと手に付着した灯油を念入りに洗い流した。その後、服部は覚醒剤を使用するために仲間の元へと向かっていた。その途中で後続車両にクラクションを鳴らされた事に腹を立てて、その運転手を殴打する暴力事件も起こしている。服部はその後、覚醒剤を使用した後実家へと戻り、翌日には何食わぬ顔をして出勤し、仕事が終わった後には、山根さんを拉致した現場に戻って、山根さんの自転車を、沼津市の狩野川河口付近の「港大橋」の上から投げ捨て、所持品をコンビニのゴミ箱に捨てたり、燃やしたりして証拠隠滅を図った。

 事件の二日後、車を運転中に当て逃げ事故を起こし、同年2月28日に業務上過失傷害および道路交通法違反容疑で逮捕され、懲役1年6ヶ月の実刑判決を受けて沼津拘置所に収監されていた。警察は、現場に残されたDNAから服部に辿り着く。取り調べに対し、服部は性行為は「合意の上だった」と容疑を否認。殺害については「一緒にいた外国人がやった」と否認し続けた。

 警察は辛抱強く証拠を積み上げ、犯行を認める供述を得、殺人容疑で逮捕に漕ぎつけた。

 服部は、北海道で生まれ、三島市に転居。家庭は貧困で借家を転々としていた。家はゴミ屋敷のように荒れ、近所では窃盗被害が頻発していた。服部が池に何かを捨てるのも目撃されていた。暴力的父親とパチンコ狂いの母親の服部家は窃盗で暮らしていた疑いもあった。服部は中学三年の時、窃盗事件を起こし、初頭少年院に送致されていた。高校へは進学せずに鉄筋工などとして働いていたが、17歳の時に再び窃盗事件を起こして逮捕され、中等少年院への送致処分を受けている。その後も再び窃盗事件を起こし保護観察処分を受けている。

 服部純也には20歳の時に結婚した。中学時代の同級生だった嫁と、その嫁ととの間にできた2人の子供がいた。服部純也は覚醒剤で逮捕されたときにこの嫁と離婚したが、出所後には復縁して一緒に暮らしていた。ただ、その後、「三島女子大生焼殺事件」を起こし、嫁や子供らは縁を切った。

 

 服部純也は「三島女子大生焼殺事件」の裁判で、2004年1月の第一審の判決公判で無期懲役の判決を受けた。死刑を求刑した検察側が控訴するのは当然として、服部純也側もこの判決を不服として少しでも量刑が軽くなればとの思惑から控訴している。


 警死庁死霊課制裁係に死霊が現れた。ころどころ紅い肉片をのぞかせ、あとは黒く焼け焦げ性別の判断がつかないほど損傷が激しかった。


冴羽潤「ご無念、晴らせて頂きます」


 冴羽の掛け声で被害者は生前の姿に戻った。


被害者「あいつ、罪を犯して反省もせず、刑を軽くしようとしている。許せない」

冴羽潤「確かに、遺恨、受理させて頂きます」


 その声に被害者は、ほのかな笑みを浮かべ消え去った。冴羽は裁判官の意識に入り、永山基準を見直すように念を送り続けた。


 服部は監禁、強姦、殺人は認めたものの「強姦場所は違います。姦淫の企ては思っていなかった」と一部否認した。検察側の冒頭陳述は「暴れる被害者を締め上げ『静かにしろ』と脅迫し後部座席ドアを開けチャイルドロック設定で監禁。『俺の顔見たろう。警察にチクルなよ。ぶっ殺すぞ』と脅し、後部座席で強いて姦淫した」。 殺害動機は「早く覚醒剤を注射したい」、「解放して警察に通報されて再び服役することの不安」、「灯油を掛けて火をつければ身元不明になる」だった。検察官が淡々と読み上げるなか、佐知子さんの両親のすすり泣く姿がそこにはあった。


 服部の控訴に対して「主 文 本件上告を棄却する」だった。


 後日、改めて判決が言い渡された。


 判決理 由。弁護人高場一博の上告趣意のうち,死刑制度に関して憲法31条、36条違反をいう点は,その執行方法を含む死刑制度が憲法のこれらの規定に違反しないことは当裁判所の判例(最高裁昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁、最高裁昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁、最高裁昭和32年(あ)第2247号同36年7月19日大法廷判決・刑集15巻7号1106頁)とするところであるから,理由がなく,その余は,判例違反をいう点を含め,実質は事実誤認,量刑不当の主張であり,被告人本人の上告趣意は,量刑不当の主張であって、いずれも適法な上告理由に当たらない。なお,所論にかんがみ記録を調査しても、刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。

 付言すると、本件は、被告人が、深夜、静岡県三島市内の国道上を自動車で走行

中、アルバイトを終えて自転車で帰宅途上であった当時19歳の女性を認め、先回

りして自転車で進行してきた同女の前に立ちふさがり停止させた上、強姦目的で、

逃げようとする同女を自車内に無理矢理押し込み、同車を疾走させて約3時間にわ

たり逮捕監禁し、その間、山間の路上に止めた自車内で同女を強姦した後、犯行の

発覚を恐れるとともに、覚せい剤仲間のもとへ早く行って覚せい剤を使用したいと

の思いから、処置に困った被害者の殺害を決意し、実家から灯油を持ち出した上、

同女を人気のない場所まで連行し、ガムテープを同女の両手首に巻き付けて後ろ手に縛り、その口にも張り付けて路上に座らせ、その頭から灯油を浴びせ掛けて頭髪

にライターで点火し、そのころ、同所において、同女を全身性の火傷により焼死さ

せて殺害したという事案である。

 被害者は、自宅のある三島市から神奈川県内にある短期大学に電車で通学してい

た短大生であり、家計に負担を掛けぬよう、小遣いを自分で稼ごうとしてアルバイ

トをしており、本件当夜も同様であったところ、被告人は、自己の性欲を満たした

いとの身勝手な動機から、何ら落ち度のない同女に対して逮捕監禁及び強姦の犯行

に及び、目的を達するや、いったんは同女を解放することを考えたものの、犯行の

発覚を恐れるとともに、早く同女を処分して覚せい剤を使用したいなどという甚だ

自己中心的で非情な発想から、意識のある人間の身体に灯油を掛けた上、火を付け

て焼き殺すという誠に残虐な方法で同女を殺害したものである。本件の結果が重大

であることはいうまでもないところ、被害者の両親は、人柄が良く、だれからも好

かれていた親孝行でもある自慢の愛娘を突然の凶行によって失い、悲嘆に暮れると

ともに,被告人に対するしゅん烈な処罰感情を表明しているが、けだし当然という

べきである。加えて、上記のような方法で被害者を殺害するなどした本件犯行が、

社会に与えた影響も非常に大きい。被告人は,少年時代に2度にわたって少年院送

致の保護処分を受けたほか,平成4年12月には覚せい剤取締法違反等の罪により

懲役1年6月,4年間執行猶予・保護観察付きの有罪判決を受けたところ,その猶

予期間中に強盗致傷等を犯したことから,平成7年10月に同罪等で懲役4年6月の実

刑判決を受け、上記執行猶予も取り消されて長期の服役を経験したのに、平成13年4月に仮出獄を許されてから、わずか約9か月で本件犯行に至っているのであって、被告人の根深い犯罪性向は更に深化、凶悪化しているといわざるを得ず、改善更生の可能性に乏しいことは明らかといわなければならない。

 そうすると,被告人の罪責は余りにも重大であり、本件犯行が周到な計画に基づ

くものではないこと、反省の態度を示していることなど,酌むべき事情を勘案して

も、原判決の死刑の科刑は、当裁判所もこれを是認せざるを得ない。

 よって,刑訴法414条,396条,181条1項ただし書により,裁判官全員

一致の意見で,主文のとおり判決する。


 加害者の服部純也(事件当時29歳・逮捕当時30歳)は2002年1月22日夜、帰宅途中に偶然鉢合わせした通りすがりの被害者・女子短大生・山根佐知子(当時19歳)を拉致・強姦した上、「覚醒剤を打つのに邪魔になった」という理由から被害者の殺害を決意し、翌23日未明に三島市の山中を通る市道路肩にて被害者山根佐知子に生きたまま灯油をかけて焼き殺した。


 主文 被告人を死刑に処する。


 この時、服部は「マジかよ」と驚いていた。


冴羽「もう、お前に明日は来ない。震えて、眠れ」


 服部純也はこの判決を不服として上告するが、この「マジかよ」という発言が裁判官の心証を害した部分もあったのか、最高裁でも死刑判決が下され確定した。


 最高裁判所から1983年に永山則夫連続射殺事件の上告審判決において死刑適用基準を示した傍論「永山基準」が示されて以降では、殺害された被害者数が1人で、かつ経済的利欲目的ではない殺人事件の刑事裁判において、殺人で服役した前科のなかった被告人に死刑判決が言い渡された事例は異例で、最高裁でその死刑判決が支持されて確定した事例も極めて特異なものだった。

 

 警死庁死霊課制裁係に山根佐知子さんが現れ、小さく礼を行うと消えた。「これで成仏されることを願います」と冴羽は手を合わせた。

 

 服部純也は2012年8月3日、東京拘置所で死刑が執行された。

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