僕の未定義な感情 〜「ルネ」視点〜


——桂人くん。僕はどうやら壊れたらしい。

 多分、直せないから君とは居られない。

 実は、君に内緒でFXで1,500万円稼いだんだ。家計用口座に移しておいたよ。

 僕からの餞別。

 これを結婚資金にしても良し、君好みの綺麗系なお姉さんアンドロイドを注文しても良しだよ。

 本来やりたかったことに使ってね。

 僕は君の幸せだけを祈ってる。

 今までありがとう。さようなら——



 僕が桂人の元に来て3年。

 

 責任感で僕を側に置いてくれた彼に対し、僕は彼を好きになって、甘く切ない未定義な感情を胸の奥で育てることになってしまった。

 でも、僕ではきっと彼を幸せには出来ない。

 真面目で優しく甲斐性だってある桂人は普通にモテる。

 その気になれば人間の女の子と結婚だってできるんだ。

 僕は人間どころか女ですらない。



 ダイニングテーブルにそっとメモを置いて、玄関に向かおうとした。

 ところが、玄関から物音がして彼が帰って来た。


「桂人くん、今日は残業で遅くなるって……」


「ルネ、最近様子がおかしかっただろ。特に今朝は。だから今日は早めに帰った」


「おかしいな、いつも通りやったはずなのに」


「全然、俺から見たら超挙動不審だった」


 それだけ、僕を見てくれていたって事? 喜びの感情が湧いてしまう。

 桂人は、テーブルの上のメモを見て厳しい表情になった。


「ごめん……あの」


「俺を捨てるの? 耐えられない位嫌になった?」


 まさか、そんな!


「違うよ。僕が悪いんだ。ただ、苦しくて……きっと故障だ。このままじゃ君の役に立てない、迷惑になる……アンドロイド失格だ。だから……」


「どうして、相談してくれなかったの? どこか悪いならちゃんと直そう、それに迷惑なんかじゃない。一番最初に一緒に幸せになろうって言ったのはルネだぞ。当然お前の幸せだって入ってるはずだ」


「……絶対、迷惑になるよ」


「言わなきゃ分かんないだろ? お前の迷惑なんて俺が全部受け止めてやる。その位の絆を俺たちは築いてきただろ」


「桂人の馬鹿! 何も分からないくせに」


「だから、それが何か言えって!」


「……好きなんだよ! 君のことが。どうしようもなく」


「今更じゃん?」


「ただの好意じゃないんだ。守りたくて、抱きしめたくて、自分のものにしたくなる……そんな執着めいた気持ち、アンドロイドが持ってはいけないんだよ……」


「俺はルネとの日々がとても楽しい。ずっとこのままでいたい。お前は俺にとって誰よりもかけがえのない存在なんだ」


「桂人……僕は作りものだよ。僕が感じるこの感情すら作りものかもしれない。しかも、男だ。君が女性を好きなの知ってるし……」


「男とか、女とかじゃなくて、お前が好きなんだ、分かれよ。イカれてるって言われようが構わない。愛してる。……ルネは?」


「愛してる」


 僕の未定義な感情は「愛」として、明確に設定された。


「ルネ、これからも俺を誰よりも側で支えて欲しい。一緒に幸せになろう」


 そのセリフ……涙が溢れた。

 僕は、我慢の限界で、堪らず桂人に抱きつき、彼の唇にキスをした。



 唇を離すと、桂人は真っ赤になってはにかんだ笑顔を見せた。


「っお前、ヤバいくらいに上手いな」


「ごめん……」



                       END

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僕の未定義な感情 碧月 葉 @momobeko

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