「サーボモータ」や「アクチュエータ」、あるいは「スクランブルモード」といった単語から、本作を執筆なさる上での作者様の教養をお見受けします。往々にしてSFは登場するガジェットの説明を長々と行なってしまうものですが、児童文学として良い意味で切り捨てなさってる点も、ストーリー進行のテンポを崩さない意図を感じます。ネットワーク接続や赤外線感知などの、実在する機械の機能について説明を簡素にしている点も同様です。
また、「ワカが田舎の学校に来た理由(=現実のロボット開発と照らし合わせた、リアリティに富んだ作中設定)」や「ロボットとして人間の『心』を理解しようとしているワカ」や、「楓と絵里香を軸にした、初々しい恋愛模様」も魅力的です。
例えば、「未来の指導者を抹殺する為に過去へ送り込まれた人間の皮を被ったロボットと、生死を賭けた逃亡劇」のような伝説的ロボットモノ作品と比べると、どうしても展開の派手さは控えめですが、終盤ではのどかな田舎の風景から一転して「対決」が描かれます。
詳しく書くとネタバレになるので控えますが、その「対決」は取ってつけたかのような(悪い意味の)即興感はなく、むしろこれまでのストーリーを十二分に活かしたものでした。誰と誰が「対決」し、その結果はどうなったのか? それもまたここでは伏せますが、本作が「連綿と続くSFの系譜」を尊重し、なおかつ「本作なりの、SF作品としての在り方の答え」を提示しているとお見受けします。
SF好きの方にも、SFにはこれまであまり縁がなかった方にも、本作は非常にオススメです。