ルネの居る生活 

「おはよう」と挨拶を交わす。

 香ばしく芳醇なコーヒーの香りが広がるキッチン。


「桂人くん、豆変えた? 今日のコーヒーちょっとスパイスっぽい風味がいいね。美味しい」


「インドネシアの豆なんだ、苦味は控えめでほんのり甘い感じだな。悪くない」


 淹れたコーヒーを褒めてくれる、何気ない会話から始まる朝。



「いってらっしゃい」

「おかえりなさい」

「お疲れさま」

「いただきます」

「ごちそうさま」

「おやすみ」


 なんてことない挨拶と、日常会話が心地良い。

 そして健康的な食事、ルネは研究熱心で外食するより断然美味しい。

 

「ルネ、美味いよ。本当に腕をあげたよな。いつでもビストロのシェフになれそう」


「ありがとう、桂人くん。でも、隠し味は『愛情』だから桂人君にしか効かないかもね」


 ……とまぁ、時々恋愛モードっぽいセリフがポロリと溢れるが、そういう性能たちだから仕方ない。

 

 

 そして、極めつけはマッサージ。

 肩、腕、背中、足の裏から指先まで。

 指圧も上手だが、オイルを使ったマッサージは最高だ。


「ほら僕さ、元々は『women's』でしょ。エステ機能ってのが充実しているんだよね。リンパマッサージとかすっごく受けが良いんだ。なんなら小顔マッサージもできるよ」

 

 ってな具合で。高級スパ顔負けのゴットハンドぶりを発揮してくれる。

 とても気持ちいいのだが、ひとつだけ難点が。

 コリが解れて気持ち良さにうっとりしてくると、ルネの手つきが次第に色っぽくなる。

 肩や腰、首筋などを超ソフトタッチで撫でるのだ。


「くすぐったいよ」


 笑いながら伝えると


「え、あ、ごめんっ」


 と少し焦った声とともに通常のマッサージに戻るのだが……。

 絶妙に敏感な場所を探し当てて触れてくるものだから……一度は変な声を出してしまって、かなり気まずい思いをした。

 まあ、これも生まれ持った性能たちだから仕方ないのだろう。


 こんな感じで、気恥ずかしい言葉を聞いたりセクシーなマッサージをされそうになったりするが、ルネの居る生活は想像以上に快適だ。

 『women's』にあったキャッチフレーズ『至れり尽くせりのスーパーダーリンを貴女へ。たっぷり愛を感じてください♡』はあながち嘘ではない。

 男の俺ですら、時折り愛されていると錯覚し、その愛を返したいと思ってしまうのだから。

 

 ……不毛な想いと知りながら、月光のようにいつも俺を優しく包んでくれるあいつに、愛しさと感じてしまうのだから。

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