第2話

黄金のきらびやかなお屋敷では、夜ごと化粧をほどこして艶やかにお仕えします。

玉でできた宮では、宴の盛り。うっとり春の空気に寄りかかり、酔いにまかせて心を溶かします。


娘のご姉妹やご兄弟はみな領を拝し、夫人や諸侯の位を与えられました。

なんとうらやましいことでしょう。ご一門の輝かしいことといったら。

この栄達を見た、世の父親や母親に「男の子よりも女の子を生み、楊家の娘のようにお上のお傍近くへ仕えさせたいものだ」と思わせるほどでした。


驪の山の高いところは青く雲へかすみ、たなびく霧にのってあちこちから仙界の音楽が聞こえては消えてゆきます。

ゆったりと流れる曲は情を込めて。袖はたっぷりと空気をふくみ、穏やかな振付け。

毎日、毎日。お上は娘と共に楽や舞をご覧になります。きっと明日もその先も、共に。



地を揺るがす。



軍馬の群れ、鬨の声。

携えた武器がぶつかり響く、何重もの音。

数十万の反乱兵が駆ける、駆ける。

戦太鼓は漁陽から迫る。


ゆるやかな拍は狂い、風に舞う衣は吹き散らされた。

黄金の屋敷はにわかに立ち上る土煙に隠れ、宮殿の門から西へ逃れるうちに見えなくなっていく。


都は落ちた。追手が、来る。

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『長恨歌』現代語訳・梨花のしらべ 余香 @hanasann

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