第6話

彼女には、思えば不可解な点が多かった。


例えば俺なんかは天気に呪われている。その傾向はわからない。ただ単純に喜怒哀楽にリンクするということではないらしいので。俺のような対処不可能な他者に迷惑をかける……病人が多い地域ではある。根拠の薄い、感覚的な、超常現象と片付けられるものに大してある程度の諦め、というか寛容さはあった。



ただ彼女のそれは俺の天気による不思議とは違うらしい。


個人の能力、呪い、祝福みたいな話題は地雷を踏み抜きがちだから今の今まで避けていた。

でも聞いておけばよかった、と思う。大変今更であるし、今彼女が出て行ったその日に戻れたとして俺がそう踏み込んだ質問をできたかはわからない。



部屋の隅で蠢く影が、彼女の形を成型していく。砂のように細かい粒が指先と思われるところに集結していく。その作業はもう仕上げらしい。それが完成してなにか一言言う前にもう一度だけ彼女が出て行った理由と向き合ってみようと思う。



髪色や、服装、さらに言えば性格など、割とその辺が時期によって移り変わる。俺と出会った時は、前述した通り髪は金色で黒いワンピースを着ていた。


その後一緒になってからしばらく、黒髪の時期があった。それが1番「らし」かったので、あれが正解だったんだと思う。



彼女は今また不自然な姿━━髪は白で服装は彩度の高いタンクトップにジーパンと言ったような━━へと変化した。


これが彼女の不思議だろうか。彼女がこの世界に居る所以だろうか。


そしてこの影法師もまた、そのうちのひとつなのだろうか。


いやしかし、そもそも彼女「らしい」というのは俺の決めつけでしかなく、確信なんぞどこにもない。ただ、黒髪が俺の好みだからというわけではない。むしろ、それに関して言えば、初めて会った時の金髪の方が……。いや、そんなことはどうでもいい。とにかく俺は彼女に関して思った以上に何も知らない。


これまでのモノローグも邪推に過ぎないのかもしれない。



堂々巡りの入り口に至るまでこうして考えを捏ね、ふぅ、と吐いたときちょうど目線の先の君の影法師と、無いはずの目が合った。

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