第8話

「この辺の地域って、他人と家族になろうとする行為になんて名前をつけていますか?」


「あー、たぶん梓咲んとこと一緒だよ。結婚とか言ったりする。」

ええ?と困惑を隠さず面を歪める。

「……不思議かい?無理もない。その制度を活用する人は少ないしね。」

「たしかに、変わった人が多い世界ではありますが、……何故ですか?」

「うん、そうだな。この時代、この世界の人々はそんなに未来を望んでいないんだよ。」

「……そうですか。」

彼女はこの世界自体の不思議についてそれ以上言及しない。僕の言い回しについても同様であった。

そういうもの、という受け入れだか諦めだか知らないけれどぶすくれた顔には「訳がわからない」とはっきり書かれていた。

「……故郷では、指輪を贈るんです。」

ソファに沈み込み、そう発する。初対面の礼儀正しい印象とは裏腹に意外とぐうたらなところがあるらしかった。

「知っているよ。」

「あれ、そうなんですか。じゃあ話が早いですね。」

相変わらずソファに喰われたままこちらを見もせず消え入りそうな声で続ける。やはり、僕について何か聞いてくることはなかった。なぜ知っているのか、と

「彼に何かしら私の存在を刻みつけてやりたいし押し付けてやりたいんです。」


いい趣味してるなと口の中で呟いて


「後悔するよりいいんじゃないか。何もかも変わってしまっても、いい意味でも悪い意味でも物って人間の寿命ごときの期間じゃ大して風化しないだろ。」


少し前に気を使うのをやめていた。うちに入り浸るようになって1週間ほど経った頃。彼女が僕ん家で背筋を伸ばすのをやめた頃。

他人からの率直な物言いにいちいち拘泥するタイプかと最初は思っていたがどうやら第一印象よりずっと彼女は強からしい。

「……よし。」

何かを諦めるような、少女時代に別れを告げるようなそんなふうに溜息と共に吐き出し、すっくと立ち上がった。

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