加速する絆

・・・



 魔法少女の強さとは何か。

 それはもちろん、魔獣との戦いの強さだろう。



 事実、魔法少女の強さの指標としてよく使われる"等級"とは、魔獣等級を基準にしている。

 そのレベルの魔獣に勝てるかどうかで、魔法少女の等級は言い表されている、ということだ。


 つまり、強さとは勝利の条件。


 そして私はあえて言いたい。その強さとは速さなのだと。

 スピードこそパワーであり、ファストすなわちストロングなのだと。


 ……実は英語よくわからんがあいつに聞いたらこんな感じだったから多分合ってる。



 何よりも速く、何よりも早く。

 誰よりも先に駆けつけ、誰よりも先に敵を倒す。

 敵は待ってくれないのだから、遅さは罪だ。速さは何よりも優先される。



 で、最速の魔法少女『加速』とは、この私。



 つまり、私イズ最強。



 そういうこと。



 速い、早い、強いの三拍子揃った超天才。

 瞬く間に魔獣を瞬殺する、絶対守護者。

 光のように加速する、マッハの戦士。



 そんなわけで戦闘が私の本領なんだが、今日は特に何もなさそうなんだよな。

 警報もしばらく鳴ってないし、今はパトロールも兼ねたお使い中。


 で、現地の人たちにお土産なんかももらったりして。



 ……なんか変なリアクションされたけどあれはなんだったんだ?



 まぁともあれ任務終了で帰宅だ。

 いやはや、しかしここが私の家ってのもまだ慣れないもんだな。





「私様が帰ったぞー!!」


「おかえり。ご飯はカレー作ってるから適当に食べなよ」



 やったぜ。カレーは最高のファストフードだからな。

 しかもレトルトじゃなくて作ってたとか、何気に珍しいじゃないか。



 そう、今の私は何故か隊舎ではなく一軒家に住んでいて、しかも二人暮らし。

 同居人は同僚なのになんだか疎遠になってしまってた幼馴染。


 一緒にいるのは別に嫌じゃないし、いまさら隊舎に戻る理由も無いのでそのまま暮らしてるが、疑問は尽きない。

 なんで一緒に暮らしてるのか、そもそも私は死んだはずじゃなかったのか。


 いま目の前で人形に何か手を加えて作業をしているこいつは、のらりくらりと何も教えてくれない。いったい何があったのか。



 ……そうだ。あの時のスタンピード。規模も異常に大きかったが……色々と想定外が多かった。

 とにかく魔獣の波が途切れることなく、少ない隊員で入れ替わり立ち替わり、三日三晩は戦い続けたか。


 そこにはもちろんこいつもいた。というか主戦力としてなくてはならない存在だった。

 最強オブ最強の私も身体は一つしかない。何千もの魔獣相手に一人で戦い続けるのも流石に無理があるからな。


 でも、こいつは……それを可能にできる凄いやつだ。最強ではないが、最優と言ってもいいかもしれない。


 人形使いのこいつは『自動』の魔法を使って人形を戦わせている。だから本人は基本戦わない。

 ずっとあっちこっちと勝手に戦う人形の間を飛び回って色々やってる……なんか妖精みたいなやつだ。


 で、その、スタンピードの終わりかけのことだった。交代要員との交代直前に、こいつがミスをした。


 大量の人形の魔力充填のタイミングを間違えて、完全に無防備な瞬間ができてしまったのだ。

 まぁほとんど寝てなかったから仕方ないといえば仕方ない。

 こいつがそんな単純なミスをするのは珍しいが、終わりが見えて気が抜けた可能性もある。


 だけど、その隙はかなり致命的だった。そこに見計らったかのように魔獣の魔力射撃が降り注いで……。


 私はそれに、即断即決で割り込んだ。迷う暇なんかなかったし、身体はほとんど勝手に動いた。


 で、そこで全部その弾幕を捌けたらカッコよかったんだろうけどなぁ……。

 まぁこいつへの攻撃は一切通してない、とは思う。それだけが幸いだったか。


 しっかし流石の超天才な私様も、連日連夜の戦闘で結構疲れてたからか、どたまにうっかり直撃を喰らってしまって……。





 そこからの記憶はほとんど無い。





 何も考えられず、感じるままに、何かの声に導かれるように、ほとんど夢見心地で勝手に身体が動いてた、みたいな感覚があった……のかもしれない。くらいだろうか。


 あれだ、夢遊病?

 何してたかは覚えてないけど、寝てる間に何かしてた、みたいなのはぼんやりと何となく覚えてる、みたいな。


 とにかく、意識がはっきり戻ったのはここ最近。

 その時の戸惑いみたいな感じは……どっちかというと、この幼馴染が目の前でアホみたいに号泣してたことに対してのものの方が大きいのかもしれない。


 ……まあ、私だってバカじゃない。

 こいつの魔法と、私の状態、あの時の致命的な感覚、組織の人員不足、色々考えてみれば、それまでどんなことが起こってたかは……わからないでもない。


 こいつは意外と真面目で割と臆病だから……きっとやりたくなくてもやらなきゃいけなかったってことなんだろう。

 こいつの魔法でそんなことできるなんてのは知らなかったけど、必要があってしたことのはずだ。無意味なことでは決してないはず。

 だったら私は私が使われた分には気にしないし、気にする必要だってない。というか気にされても困る。


 だというのに、あの日以来こいつは私と向き合うとき、絶対に最初、目を逸らす。さっきだってこっちを見ようともしてない。

 で、私はそれが気に食わないので、その視線に加速して先回りするのがここ最近のお決まりとなってるわけだ。


 今みたいに。……『加速Acceleration』!




「ぅお! ……いや無駄に魔法使うのやめなって」

「ははは、この環境でお前にだけは言われたくないがな!」


 私たちの周りには勝手に動く人形が、まるで生きてるみたいに掃除をしたり洗濯物を畳んでいたりする。

 相変わらず器用だ。どう魔力操作したらこんなことができるんだか。


 こんなふうな魔法の私的使用は本来禁止されているが、それを厳密に守っているって魔法少女に私は今まで会ったことがない。建前みたいなもんだ。

 というか使おうとしなくても覚醒魔法少女は属性を垂れ流してるからな。使うなっていうのはどだい無理な話。


 ちなみに私の場合は魔法を使わなくても常に動きが速い。魔法を使わなくてもキビキビ動ける。自動加速ってやつだ。


 で、こいつの場合は……。



 ……。……?




 いや、なんだ……? 自動自動……??




「自動自動?」

「なにそれ」


「こっちのセリフなんだが。いやお前の魔法って、使ってない時どういう効果なんだ?」

「あー、パッシブ的な話? ……さぁ?」



 本人にもわからないらしい。

 そもそもその魔法、複雑すぎる。私みたいに単純明快であれよ。



「あ、でも私あれだ。めっちゃだるいなぁ動きたくないなぁってなってもルーチン的に身体は動かせるから、これなんじゃないかな」

「ふーん、つまりそういうのは勝手にやれるってことか」

「というかルーチンが得意なのもそうかも。一回覚えたら大体は同じことリピートできるから料理なんかも得意だし。……めんどいからあんまりやらないけどね。私は怠け者なので?」



 確かにこいつは手先が器用で、単純作業をミスすることは滅多にない。

 だからか、普段はしないがいざ食事を作るとめっちゃ上手い。かつめっちゃ美味い。


 というか私はさっきから腹が減っているんだよ。カレーの匂いが暴力的に食欲を刺激してくるんだ。

 さっさと食事の準備をして、と。着替えるのもめんどくせぇ! ひゃっはーカレーだ!


 カレーはご飯を盛ってルーをかけるだけでできるので、手っ取り早いから私好みだ。ナンやパンでも可。

 あとスープカレーもいいし、ごろごろ野菜カレーもホワイトな白いカレーも好き。


 早くて易くて美味い。ホント最高アンド最高な私向けの料理である。



「うめぇ」

「私も休憩して食べよっと」

「超うめぇ。あー、いつも作ってくれたらいいのになー。毎日毎食私のために」



「お? ……お?」



 うん? そっちから目を合わせてくるなんて珍しい。

 そんなキョトンとしてどうした?



「…………あ……いやさ……流石にいつもカレーは飽きるでしょ」

「別にお前が作るカレーは飽きないぞ。いつでも食いたい」

「……」



 いや、なんで顔を逸らす? 私なんか変なこと言ったか?



「……、ホントこの隊長は……」

「今の隊長はお前だけどな」

「うっさい黙れ」


「なんだよ怒るなよ。そんな顔赤くして」

「うっさい死ね。……、……ぁ」



 ……む?

 なんだどうした?



 ……。



 んー、あー……もうこいつ。


 だからお前が気にすることじゃないんだっつーのに。



 私は生きてるだろうが。

 お前が冗談みたいに死ねって言ったところで別に死んだりしねーよ。


 あの時のことは、お前のせいじゃないんだから。



「ぁ……ごめっ……、むぎゅ」


「バカだなぁお前ホント」



 後ろめたいのはわかるんだがなぁ、流石に後ろ向きすぎだろ。さっさと早く前に進もうぜ?

 小さなこいつの小さな顔をむにゅむにゅしながら説教してやる。


 ……思ったよりやわらかいな。



「わっかんねぇかなぁ。終わったことじゃなく、今を見るんだよ。私はここにいるだろ?」



 なんだっけか。過去とは過ぎて去ると書く、と。

 よくわからんが、要は終わった話なんだってことだろう。


 それを覚えとくのはいいかもしれないが、そればっか見てるのは違うと思う。

 だって過去ってことは、もう今には無い話だろ? 今にあるのは今じゃないか。



 お前の目の前にいるのは。そうだろ。そっちばかり見るな。






「だから、


「っ……!」






 ガンをつけるように、額がつくほど、至近距離で。

 本気の言葉をぶつけてやる。回りくどさなんか必要ない。


 率直に、最短で、真っ直ぐに。

 昔の私では不十分だった。足りなかったんだ。


 今の私はもう……間違えない。


 だから、わからせてやる。見せつけてやる。

 お前の前にいるのは、お前を一瞬のうちに置き去りにする私じゃない。

 お前の元に、一瞬で駆けつける私なのだと。




「……」


「ちか……いんですけど……?」


「……」


「あの……あの……ちょっと……?」


「……



「……え」



「ああそうだ、やっと思い出せた。お前、心に壁作ってるんじゃねぇよバーカ」



 目覚めてから、ずっとこいつの名前がわからなかった。

 私が寝てるうちに認識阻害かかるほど心の距離が離れたのかと……割とショックだったんだ。


 ほんと良かった。これって今の私をちょっとは受け入れたってことだろ?



「え……、隊、長……?」

「だーかーら、隊長じゃねえっての。それは昔の私だろ。今の私は副隊長……お前の部下だよ。だから名前で呼べ」


「……」

「ほら」

「……」

「ほらほら」

「ちょ、ち、ちか……」

「ちか? 私そんな名前だったか?」


 あれ、私に心の壁、無いはずだよな……?



「……」

「……」



「はやて……」



「お、言えたじゃねぇか。褒めてやる。おらおら、なでなでだ!」

「あ、や、やめ、やめ、お、おお」

「うりうり」

「おおお」

「ぐりぐり」






「ぉおお『自動Automation』!! この馬鹿を引き剥がしてみんな!!」



「『加速Acceleration』……それは残像だ」




「……ん、ああっ! くっそむかつく! なんでこの馬鹿が私の部下なんだよ!」


「そうそう、私はお前の部下だ。お前についてきてもらう上司じゃなくて、お前についていく部下、な」




 私は超天才のマッハ戦士だからな。ついてくるのも大変だっただろう。

 だから、これからは私がお前についていってやる。

 絶対に見失わないし、絶対に置いていかない。



 今の私とお前は、そんな関係なんだ。そうやって、ずっと一緒にいようぜ?



「……」


「だから改めて言っとく。これからよろしくな、?」



「……私の命令には従ってよね」

「おう、できるだけがんばるわ」


「なんか命令を破られる未来しか見えないんだけど……、……」



 はっきり言えよ。私は聞き逃さなかったけどな。


 ……そうか、嬉しいのか。嬉しそうな顔、隠しきれてないぞ?







「うん……これからも、よろしく」



 ああ、よろしくな。可愛らしい私の指揮官様。







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一般通過自己犠牲全体回復魔法持ち魔法少女 マッキーイトイト @mckeeitoito

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