第二話 とある女性との出会い

ある日のこと、蓮はいつものように大学の図書館に足を運んでいた。彼の生活において、図書館は少しだけ心が落ち着く場所だった。周りの人々が彼を避ける中、ここだけは誰も彼に関心を持たず、静かに時間を過ごせるからだ。


その日も、蓮はいつものようにお気に入りの席に座り、勉強道具を広げた。教科書を開き、ノートにペンを走らせるが、どうにも集中できない。頭の中では、またしても「どうして自分には彼女ができないのか」という考えが巡っていた。


「これじゃダメだな…」


蓮はペンを置き、ふと周りを見渡した。その瞬間、彼の目に止まったのは、一人の女性だった。彼女は少し離れたテーブルで、静かに本を読んでいた。


彼女は清楚で端正な雰囲気を持っており、まるで古典映画から抜け出してきたような佇まいだった。長い黒髪が肩にかかり、落ち着いた淡いブルーのカーディガンを羽織っている。その清楚さとクールな表情が、蓮の心を引きつけた。


「彼女は…一体誰だろう?」


蓮はその女性に自然と視線を送ってしまった。彼女は全く気づいていないかのように、本に集中している。ページをめくるたびに、彼女の指先が静かに動き、少しだけ表情が変わる。時折、彼女の眉がほんの少しだけしかめられ、それがまた彼女のクールな印象を強めた。


「話しかけてみようかな…」


しかし、蓮はすぐにその考えを打ち消した。これまでの経験から、彼が話しかけても相手が逃げ出すのではないかという不安がよぎったのだ。それに、彼女の清楚でクールな雰囲気は、蓮にとってさらに近づきにくいものに感じられた。


それでも、蓮はなぜか彼女から目を離すことができなかった。彼女の静かな存在感が、まるで周囲の喧騒を和らげるかのように感じられたからだ。


その後、蓮は何度か図書館に足を運んだが、彼女を見かけるたびに胸が高鳴るのを感じた。しかし、話しかける勇気はどうしても湧いてこない。彼女はいつも一人で、本に集中している。まるで、他人を寄せ付けないかのように。


ある日、蓮は思い切って行動に出ることにした。彼女が読んでいる本に興味があるふりをして、少しでも彼女に近づくきっかけを作ろうと思ったのだ。蓮は彼女がいつも座る席の近くに、何気なく歩み寄った。


そのとき、彼女がふと顔を上げた。蓮と目が合う。彼女の瞳は冷静で、感情を読み取ることが難しい。しかし、蓮はその瞬間、自分がすでに彼女に惹かれていることを自覚した。


「…その本、面白い?」


蓮は自分でも驚くほど自然に声をかけた。彼女は一瞬驚いたように見えたが、すぐに表情を戻し、淡々と答えた。


「ええ、まあ。でも、あなたには難しいかもしれないわ。」


彼女の言葉は冷たくもあったが、その中にはどこか優しさが含まれていた。蓮はその言葉に少し戸惑いながらも、彼女の反応に安心感を覚えた。これまでの女性たちとは違い、彼女は逃げることなく、蓮と対話を続けてくれたからだ。


「そうなんだ、じゃあもう少し勉強しなきゃね。」


蓮は笑顔で返した。彼女もほんの少しだけ、口元を緩めたように見えたが、すぐにまた本に目を落とした。


それが蓮と彼女の初めての会話だった。短く、控えめなものだったが、蓮にとっては大きな一歩だった。彼女のクールな態度に、何か特別なものを感じた蓮は、これからも図書館に通うことを決意する。彼女ともう少し話してみたい、彼女のことをもっと知りたいという気持ちが、彼の中で芽生え始めたのだった。

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