第九話 読書の時間、心の距離
大学のカフェテリアでの静かな午後。蓮は、九条さんと向かい合って座っていた。二人は読書サークルの活動として選ばれた本に夢中になり、ページをめくりながら感想を交換していた。九条さんは以前に比べてリラックスした様子で、蓮と過ごす時間を楽しんでいるようだった。
「この本、すごく面白いね。」
蓮は静かな声で言った。「特に主人公の苦悩が深く描かれていて、どこか自分と重なる部分があるなぁ。」
九条さんは微笑みながらページを指さし、「その部分、私も共感したわ。主人公が困難に立ち向かう姿が、とても勇気をもらえるの。」と静かに答えた。
蓮はその微笑みに心が温かくなり、「九条さんがこんなふうに本を語るのを見るのは、初めてだね。すごく新鮮だし、楽しいよ。」と、少し照れながらも正直な気持ちを伝えた。
「ありがとう、星野くん。」
九条さんは優しく応え、「実は、こんな風に誰かと本について語るのは久しぶりなの。誰かと深く話せるのは、やっぱり嬉しいわ。」と少し照れくさそうに言った。
その後、二人はしばらく静かに読書を続けた。時間が経つにつれて、二人の間に心地よい静寂が流れ、穏やかな雰囲気が漂っていた。ふと、九条さんが時計を見て、「もうそろそろ帰らないと…」と呟いた。
「そうだね、時間が経つのが早いなぁ。」
蓮は時計を見て驚きながらも、心の中で少し寂しさを感じた。「もう少しこのままでいたいけど…」
「もしよければ、一緒に帰らない?」
九条さんは少し躊躇いながらも、優しく提案した。「私もアパートがこの方向なの。」
蓮はその提案に心から喜び、「それはありがたいよ。実は俺も同じ方向に住んでいるんだ。」と微笑んだ。
二人はカフェを出ると、自然と並んで歩き始めた。夕暮れの街並みが柔らかく照らされ、二人の歩く姿が一層穏やかで幸せそうに映った。道端の街灯が灯り始め、柔らかい光が二人を包み込む。
「今日は本当に楽しかった。九条さんとこんなふうに過ごせて嬉しかったよ。」
蓮は心からの言葉を口にした。
「私も楽しかったわ、星野くん。」
九条さんは優しく微笑みながら、「これからも、いろんな本を一緒に読んで、お互いの考えを共有していけたらいいなって思ってる。」と続けた。
蓮はその言葉に心が温かくなり、少し顔を赤らめながら、「それはいいね。これからもっといろんな話をしよう。」と応えた。
二人がアパートの近くに差しかかると、九条さんが少し照れくさそうに、「ここで分かれるけど、また明日サークルでね。」と言った。
「うん、また明日。」
蓮は優しく頷き、彼女に手を振りながら別れた。
蓮はそのままアパートに帰りながら、心の中で「九条さんと一緒に過ごす時間が本当に楽しい。これからももっと仲良くなれるといいな。」と感じていた。彼の心には、今日一日が特別なものであったことが深く刻まれていた。
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