第五話 勇気を出して、でも...

蓮は、九条さんともっと親しくなりたいと感じていたが、どうしても話しかける勇気が出ずにいた。何度か挨拶はしたものの、話が続かず、すぐに気まずい沈黙が訪れてしまう。


ある日、蓮は思い切って、図書館で九条さんに話しかける決心をした。彼女がいつもの席に座っているのを見つけると、心臓がバクバクと鳴り始めたが、なんとか気持ちを落ち着けて近づいた。


「こんにちは、九条さん。今日も勉強ですか?」

蓮は少し緊張しながら声をかけた。


九条さんは蓮に気づき、いつもの冷静な表情で微笑んだ。「こんにちは、蓮くん。そう、今日も少し勉強をしようと思って。」


蓮は少しほっとしながら、話を続けようとしたが、何を言えばいいのか迷ってしまった。数秒の沈黙が流れ、蓮は焦り始めたが、なんとか言葉をひねり出した。


「あの…九条さんは2年生なんですよね?」


九条さんは軽く頷き、「そうよ。2年生だけど、まだまだ勉強することがたくさんあるわ。」と答えた。


「そっか…それにしても、九条さんってすごく優秀ですよね。噂では、GPAもすごく高いって聞いたけど…」

蓮は少し驚きと尊敬の念を込めて言った。


九条さんは少しだけ照れくさそうに微笑んだ。「まあ、頑張ってるだけよ。成績を維持するのは大変だけど、やりがいがあるわ。」


蓮は彼女の努力を称賛しながらも、どうしても会話が続かず、再び沈黙が流れた。どうにかして話題を探そうと、蓮は焦りながら口を開いた。


「それに、九条さんってモデルにスカウトされたって話も聞いたけど…本当?」


九条さんはその質問に驚いたように目を見開いたが、すぐに落ち着きを取り戻し、軽く頷いた。「そうね、何度かスカウトされたことはあるわ。でも、断ったの。」


蓮はその答えに少し驚いた。「どうして?モデルになれば、きっとすごく人気が出ると思うけど。」


九条さんは少し考え込みながら答えた。「確かに、モデルの仕事も面白そうだと思ったけど…それよりも、今は勉強に集中したいの。それに、自分のやりたいことが他にあるから。」


蓮は彼女の言葉に感心しつつも、それ以上どう話を続ければいいのか分からず、また沈黙が流れた。


「そっか…九条さんは本当にしっかりしてるんだね。すごいな。」

蓮はなんとか話をまとめようとしたが、それでも会話は続かず、気まずい空気が漂い始めた。


九条さんはそんな蓮の様子を見て、少しだけ微笑んだ。「ありがとう、蓮くん。でも、そんなに気を遣わなくても大丈夫よ。」


蓮は彼女の言葉に救われた気がし、少し安心した。「うん、ありがとう。じゃあ、またね。」


そう言って蓮はその場を離れたが、心の中では自分の不甲斐なさに少し悔しさを感じていた。彼女ともっと話したいのに、どうしても会話が続かない。だが、九条さんが自分とは違う次元で生きているような気がして、ますます距離を感じてしまうのだった。

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