第5話
コンコンコン。
「あなたたちーいつまで寝てんだい? いくら夜遅くまで頑張ったからって……もう昼だよ! ほらアキカゼ! ルルを起こして、腰もさすってやんな!」
「あへえ?? 昼? 起こして腰、さする?」
ぼんやりとした頭のまま眼鏡を探り当て装着してから、目をうっすら開けると目の前には……ルルがいた。寝ている、寝息を立てている。
ああ……かわいいなあ。やっぱ寝顔いいよなあ、幸せに包まれる。
「はっ!」
ただそれも一瞬のこと。すぐに暗雲が立ち込める。ルルは寝ている、自分の横で、同じベッドで、そして布団を肩までかけている。そして自分は、上裸である。上だけで済んでいるのは不幸中の幸いであるが、布団をめくってみないことにはルルがどんな姿なのか…………分からない。ただもしそうであった場合、酔いに任せて対策も何もせず行為に及んだうえ、朝から裸を見るといったことになってしまう。
昨夜の記憶があれば安心してルルの寝顔を眺め、あわよくば二度寝という前世では考えられない幸福を味わえるのだが…………はっきり覚えていない。
酔いが回りゲームをしようと持ち掛けたところまでは覚えている。だがそこで星の数ほどあるゲームの中から何を、チョイスしたのか。アルコールが善悪を司る部分の機能を阻害し、セクシーなゲーム、例えば野球拳といったものを持ち掛けたとも限らない。
『強いですね、アキカゼくん。どうしますか? 下着一枚だけになっちゃっいましたよ? 別に脱がしてくれたっていいんですよ?』
『どうする?
ドタバタドタバタ……なんてこともありえなくはない。いや、いくらなんでもまだ会って1日も経ってない相手と……さすがにそこまでの理性は…………食事前に空のかなたに行ったなあ……前世の両親へ。息子はもしかしたら、もしかしちゃったら大人の階段をアルコールの力でひとっとびに超えてしまったかもしれませぬ。
「ふぁああ。むにゃむにゃ」
眠り
「むにゃむにゃ……アキカゼくーん、ちょっ、そんなとこまで「だーー! 起きてくれー! 起きるんだ、眠り姫! 断らなかったあなたにも、責任は、責任は、ありますからねー!」おはようございます……アキカゼくん? 朝から騒いでどうしたんですか?」
パサッ。上体を起こしたルルの肩から毛布がずり落ちる。
「ああ、だめだあああああああああああ」
悲鳴を上げつつ、がっつり指と指の間から覗き見る。少々ずり落ちてはいるけど服は着ている…………
「あのさ、ルル」
「今度はどうしたんですか?」
「昨晩俺たちそういうことしちゃt「女の子に何聞くんですか、してないですよーー」」
がつん。
肩に衝撃を感じてうずくまる。が、
「痛く……ない。なにしたの、ルル」
「すみません。少し強くなりすぎました。」
「大丈夫大丈夫。女の子のパンチはご褒美だから」
「…………」
「あー、冗談。すごく冗談……で、なにしたの?」
「ダブル【衝撃】パンチです」
なるほどなるほど。ルルに言う下ネタは度を過ぎるとパンチされるっと、心のメモ帳に書き留めておく。
その後再び来た女将さんにどやされて、俺たちは飛び起き、背中合わせのような形で二人とも着替える。
背後からの衣擦れの音から意識を遠ざけ、窓の外を眺める。
昨日は分からなかったが、春のようだ。少々きついピンク色の花が咲き誇っている。そういや前世ではもう少しで高2だったんだっけ。
「もういいですよ」
「はーい」
「まだです! まだ見ちゃダメですよ!」
「えっ!?」
「冗談はさておき、本題に移ります。仕事、探しませんか?」
「冗談だったんかーい。仕事? そりゃまたなぜ? 覆面ズは? 大丈夫なの?」
「正直大丈夫とは言えない状況です。でも何か盗ったりしてない限りは積極的に市街地で、ということはないと思います……何も盗ってないですよね?」
「あー申し訳ないけど気づかないうちに…………ボロ手帳取っちゃったかも」
ルルの目がすぅっと糸のように細くなる。
「出してください、アキカゼくんそれ出してください」
「はい、どどどどどーぞ」
威圧感に押しつぶされそうになりながら、滑らすようにルルの手に乗せる。
「…………どうでしゅか?「静かにしてくださいっ!!」はひいい」
ルルが大きなため息をつく。
「これを手にしてから何か異変はありましたか?」
「昨日言ったメジロが……」
ルルが両手で頭を抱える。
「……これはあの組織では聖書のような扱いを受けている『無題の魔法書』と言われる書物です。行方が分からなくなってたはずなんですけどね。こうなると戦いは避けられないかもしれません。まあ一旦もう少し離れたところ、王都の中心部あたりで宿を探しましょう。そこを拠点にして、仕事も探しましょう。」
戦いか、どうやら事態は良好とは言えないようである。だがやはりここは剣と魔法の世界、異世界であるようだ。
こうして俺とルルは王都を目指すことになりました。王都、楽しみだな。
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