第9話

 2か月後


「はい、ルルちゃんとアキカゼくん、お給料やで」

「ありがとうございます」

「あざーっす」

「二人が来てから、メニューも増えてお客さんも増えて大通りに店も構えられるようなって、お礼したいのはほんまにこっちのほうやよ。それで少し多めに入れといたからねえ」


 そういって店長は金貨の入った袋を二つ机に置く。働き始めて二ヶ月だが、初めての給料だ。最初の月は店長の厚意で給料以上のお金を家――二人で住んでいるが特にウフフなこともなく、食事は店の売れ残りを持って帰って食べたりと、健全な共同生活を営んでいる――や生活必需品の補充に充ててもらったからである。


 小籠包――後で分かったことだが、この国では国教であるフレストラ今日の教えで肉を食べない。そのため小籠包の中身は魚だった――以外にも、屋台ということもあって手軽に食べられるように串に刺したカマボコもどき、焼き魚弁当などの商品開発をしたり、飛竜車という空を飛ぶ乗り物で配達をしたりで二ヶ月はあっという間に過ぎてしまった。その間強者の集いの襲撃はなく、姿を見せることもなかった。


 木を隠すなら森の中ということなのだろう。ただ懸念点として時々ルルが家を早朝に抜け出しているのが気になる。


 給料と若干の懸念をぶら下げて帰路についた。


******


「アキカゼくん、お話があります」


 ベットルームとリビング、バスルームを備えた二人の愛の巣(?)に帰ってきて早々こう切り出された。


「かしこまってどうした? 二人で給料の一部を出して、生活費に充てようっていう提案?」

「それもそうなんですけど、そうじゃなくて……」


 歯切れが悪いルル。そしてこの苦い顔は――


「強者の集いのこと、だよね?」

「はい、そうです。私は強者の集いに入っていました。でも、それだけじゃなくて……」

「いいよ、何でも言って」

「実は幹部だったんです。キノサナには監視に行ってたんです、本部から。それに加えてカミメア真教の教祖のモリス・ヴェストルラは私の父です」


 ……そういうことだったのか。だから、あいつはルル様って言っていたのか。


「そして、ここからが本題です」

「ここからなんだ……」


 ルルが息を吸い、意を決するように正面を見据えた。


「私は強者の集いをつぶそうと思います。そしてそれに先立って、今日とある囚人しゅうじん達を脱獄だつごくさせて、力を借りるつもりです」

「はあ……」

「私はとうとう犯罪を犯します。王国の陰謀いんぼうに深くかかわることになりそうなので、指名手配はされないと思いますが、ひそかに命を狙われることもあると思います」

「ふむ」

「アキカゼくん。私についてくるか、この町で私を待つか選んでください」

「行く」

「え?」


 驚いた様子のルル。


「だから、ついていくって言ってんの」

「え? でも……」

「君がいなかったら俺はここにいない。恩は返す……いや、ルルの力になりたい」

「アキカゼくん……」

「さあ、計画を話して」

「……」

「泣かないでよ……カッコつけたの恥ずかしくなるじゃん」

「……当代最強とうたわれた魔術師アルメット・フェーズジア、その仲間のニニノス・ウルファンクァルスとソフィアという人物を脱獄させます。彼らは三年前に国家の転覆てんぷくを企んだとして逮捕され、一か月後に無罪判決を受けました」

「え、じゃあ」

「ところが釈放しゃくほうされず、噂によると国家の秘密を握ったため暗殺された……とされていました」

「されて……いた」

「しかし実は旧監獄という現在使われていない場所に捕らえられている可能性が高いんです」

「それは、どうやって」

「張り込みです。毎日のように早朝監獄付近で浮遊しながら張っていたら、明らかに誰かが収容されているかのごとく物資が運び込まれていました」

「じゃあ、確証はない……ってこと?」

「はい、ただ可能性としては高いと思います。罪人で行方不明なのはその人たちだけですから」

「よし、どう攻めるの?」

「……はい! まず裏からこっそり入って、誰かにあったら戦闘です」

「それだけ?」

「それだけです」

「大丈夫?」

「旧監獄は表向き使われていないのでほとんどノーマークなので大丈夫だと思います」


 ぱわーたいぷ……


******


 その日の深夜


「いよいよだね」

「はい」

「確かに人がいそうにないね」

「ではこっそり入りますよ。時間勝負なのでできるだけ急いでいきましょう」

「了解」

「じゃあ………」

「うん」


 ツタに覆われた扉をゆっくりと開いていく、二か月前にも恐る恐るドアを開けた時があったっけ……あのとき蝶番なったよな…………


「ルル、一応 蝶番ならないようにだけ、気を付けて」


 キィィィ~

 フリだったかのように、ドアが音を立てた。

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