第10話

 キィィィ


(あーーーーーー)


 小声で控えめに叫び、頭を抱えてうずくまり、そっと辺りの音を聞く。


「……大丈夫そうだね」

「アキカゼくんなんでそんなビビってるんですか?」

「トラウマなんだよ……ほら、早く入って」

「入りますから、お尻触らないでください」

「え?」

「冗談です」


 思わず見てしまった手のひらを汚れを落とすように払い合わせて、ルルの後を追いかける。


 武器が保管してある部屋と守衛室のようなものを見つけ、鍵を回収して2階に上がる。2階でも探していくがなかなか見つからない。が――


「ルル、このマーク至る所にあるけど何のマーク? 王国のじゃないよね」

「これは……竜人会のマークですね。竜人会が関わってるのでしょうか、てっきり強者の集いとかだと……」

「なんかぞっとしてきたな…………そろそろ最上階か」

「そうですね、いるといいんですけど」


 占領されないためか各階ランダムに配置された階段を上っていく。4階まで上がる。古びた扉をそっと開け中をうかがう。


「まじで誰も見張ってすらなかったな……ん? あそこ明かり漏れてない?」

「本当ですね……はじめまして、ルル・ヴェストルラとこれはシミズ・アキカゼです。はじめまして、ルル・ヴェストルラとこれはシミズ・アキカゼです……行きましょう」


 しっかり開けて、ルルに任せる。


(がんばれ、店の接客担当の意地を見せるんだ!!)

「誰か……いらっしゃいますか」

「……いますが、何者かな?」


 若い男の声が返ってくる。


「失礼ですが、アルメット・フェーズジア様とニニノス・ウルファンクァルス様とソフィア様で間違いないでしょうか? はじめまして、ルル・ヴェストルラと」

「シミズ・アキカゼです」

「いかにも、アルメットと連れだが、何をしに来たのかな?」

「強者の集いの壊滅にお力を借りたくて……そして、ここから出ていただたきたく参りました」

「ッ…………よかろう、私怨しえんもある。ただ、私は手首につけられた魔法封じの魔道具によって、魔法を使うことができない。それでも良ければ手を貸そう、もちろんほかの二人も私も全力を尽くそう。どうだい、それでもいいかな?」

「構いません。お二人もたいそう強いとお聞きしておりますから」

「ふむ交渉成立だね、出してもらおうか」

「ありがとうございます」

「じゃあ鍵で開けます」


 一発で鍵を当てて、開ける。中から三人――茶髪のロン毛で手首に太い金属の輪ははめている若い男性と、灰髪の同じく若い女性、白毛をしている小柄なトイプードルに似た年齢不詳の獣人――が出てくる。


 おそらくアルメットと思わしき人物が口を開く。


「まず礼を言おう、ありがとう。まず二人の武器を取りたい、その後ここから逃げよう。詳しい紹介は後だ」

「3階に武器保管室があったので行きましょう」

「その後は私たちの家に行きましょう。私の特性は飛翔なので、輪になって手をつないで飛んで逃げたいと思います」

「了解」


 階段を下っていく、気づくと隣にトイプードル獣人がいて、小声で話しかけてくる。


「こんちは~、ニニノス12歳だよ。ニニって呼んでね~」

「あっすぅ……アキカゼです。はい」


 はい、コミュ障が出ました。ルルの時はあんなにスムーズに話せたのに……命の危機がないとだめなのか? だがそんな俺を気にする素振りもなく、ニニは言葉を続ける。


「ニニはアルムの異母弟おとうとだよ~。あっ、アルムはアルメットのあだ名だよ~」

「あっ、はあ」


に重いものを感じた気がしたんですけど。


「あとニニはね、精霊術二刀流剣士なんだよ~、カッコいいでしょ」


 中二病心をくすぐる、欲張りネーム。すごいな、精霊術ってことは契約型かな?


「あ、精霊術って契約型?」

「ちがうよ~、そこらへんの精霊ちゃんがついてくるやつだよ~、あれ? 肩に乗ってるの精霊? 可愛い~、触ってもいい?」

「あ、どぞ……チルルって言います」

「チル、チルチル」


 嬉しそうに撫でられている。精霊に好かれるみたいなあれなのかな。


「アキカゼも精霊術師なの?」

「うん、契約型。魔法もちょっと使える」


 2か月の間にルルに教えてもらって練習した、基本はできるようになった魔法をドヤる。


「え、すご~い。ニニは魔法使えないんだ~」


 そうこうしているうちに武器保管室につく。


 自分は二ヶ月の間に買った短弓や投擲とうてき用ピック、トマホークを持っているが、ここで少しいただいておこう。ちなみにチルルの能力が効くのは手で持てるくらいの重さのものだ。


 いくつかとって腰のベルトにはさむ。


「スピードスターちゃんとブラックウィンドウちゃんやっと会えたね~」


 ニニがカッコよすぎる剣との再会を祝っている。スピ-ドSスターがレイピアっぽく、ブラックWウィンドウが幅広剣のように見える。


 横を見るとソフィアさんが特大剣の柄頭に分銅鎖ふんどうくさりのようなものをつけたとんでもない武器を持っている。どう持ち上げるのか見ていると、回転しながら反動をつけて担ぎ上げた。


「すげぇ……」

「すごいよね~、ソフィア姉ちゃん。相手には絶対したくないよね。大剣だけじゃなく視界の外から襲ってくる鎖にも注意しなきゃいけない」


 当代最強の魔術師にヤバ武器振り回す人に挟まれてるニニもかなりすごいんじゃ。


 外に出て輪になり、ルルの飛翔で徐々に体が浮いていき、飛んでいく。


「いやー、本当に楽勝でしたね」

「ルルさん、あんまりフラグ立てないでッ!」


 突然、強い光があたりを照らす。


「見つけたぞ、おらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」


 そして謎の男の雄たけびが聞こえた。次の瞬間、輪の中心に衝撃波が走り、体全体に強い痛みを感じる。思わず手を離す。


 魔力か?


 浮遊感を感じながら落下していく、地面が近づく。ぶつかるッ!!


 直前で速度が遅くなり、柔らかく地面に転がる。周囲に目をやるとニニが親指を立てて、その後ある方向を指さす。目をやると山賊のような服に身を包んだ男と、覆面の男が5人立っている。


「どこに落ちた? 出てこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい」


 と、山賊コーデが向いていた方向に生えている木が次々に倒れていく。声が魔力に変わる特性か?


 山賊コーデがこちらを振り返る。まずい、目が合ってしまったッ!


「みいつけたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る