第8話
「おろ?」
ルルの手を掴むはずだったの手が宙を切る。視界がモノクロに変わっていく。
なんだ? 貧血か? わき腹から出血していたようで地面が近づく。
「アキカゼくん?! 大丈夫ですか!?」
地面にぶつかる寸前で抱きかかえられる。
「おーありがとう。もう少しで地面にファーストキス奪われるところだったわ」
「軽口叩けるってことは大丈夫ですね。寝床を探しましょう」
そう言って歩き出そうとするルル。
「ちょっと待ってよ。わき腹のけがが……」
「見せてください。うわっ、結構深いですよ、この傷。すぐ手当てしますからね」
「…………うぎゃあああああいだいいだい痛ーい」
燃えつくような痛みと、皮膚がねじれるような痛みが傷口に走る。
「静かにしてください!!」
「一体何してるの、ルルさん!?」
「【
治療なの!?
「なんでこんなに痛いのよ」
「傷口を洗っておかないから汚いんですよ。小さいころお母さんに言われませんでした? 傷口は洗いなさいって。それに魔札の術は完全じゃないので。ちゃんとした治癒魔法なら痛くないんでしょうけど…………」
いや、言われたけども。水道もないのに、どう洗えと!?
なんやかんやで痛みが引いていく。
「痛くなくなった……かな。ありがとうルル」
「もちろんですよ! アキカゼくん、私たち共犯者ですからね! さあ寝床を探しましょう」
共犯者という響きにゾクゾクしつつ、そこから十分ほど歩いたところで、怪しい道に入っていく。空き家というより
「ここなんて言わない……よね?」
「ここですよ。意外と遅くなっちゃいましたね。さあいちばんこわれてない家を探して今日はさっさと寝ましょう!」
そう言いながらのぞき込んでいる。異世界ギャップ……俺、なじめるかな。
「あっ、ここいいですよ。ここにしましょう早く早くー!」
「こっちのほうが屋根も壁もしっかりしてるよー。こっちにしようよ」
「ここです。私はもう決めたんです。別にアキカゼくんが来なくたって一人で寝れますし?」
片目でチラ見するな! 可愛すぎるんだよ!
「ったくしょーがねえなあ」
入ると、まさに廃墟という感じ。よくわからないものがごろごろと転がり、落書きもちらほら。寝るために床が見えるくらいまで片付ける。
「そういえばなんかメジロの能力で狙ったところに投げれるようになったっぽい」
「!? アキカゼくん、君ってやつは……」
「え? 何?」
「私の弱点をことごとくつぶしていきますね。私たちベストパートナーじゃないですか」
………床が見えてきた。いや照れてるわけじゃないよ?
「じゃあ寝ましょうか」
「えっマジの床じゃん。ルルってもしかしてどこでも寝れるタイプ?」
「……」
「タイプ?」
「…………ぐーすー、ぐーすぴー」
「ふむふむ、寝れるタイプなんだねぇ」
一瞬で寝たルルをしり目に何か敷くものとかけられるものを探す。見つかったのは
「謎の獣の毛皮にふわふわの
獣の毛皮を内側に絨毯でくるんで寝袋もどきを、灰色の布を折りたたんで枕もどきを作る。想像力の勝利だ! 達成感を
さて寝ようか。おやすみ、ルル。
********
チルチル、チルチルチル、チルチル
メジロの声で目を覚ます。
いつまでもメジロじゃかわいそうだなあ。俺に対してずっとニンゲンって呼びかけてるようなもんだからな。よしっ、命名しよう。
「君はチルルだ!」
「――アキカゼくん? 何一人でぶつぶつつぶやいてるんですか?」
「おはよう、ルル。起きてたんだ」
若干の気まずさもありつつ、おはようをする。気持ちのいい日は気持ちのいい挨拶から!
「おはようございます、アキカゼくん。なんでふわふわに包まれているんですか? ずるいですよ!」
「これはこれで大変だったんだよ」
枕もどきはまだよかったが、寝袋もどきは酷かった。通気性がないので、寝汗で蒸れて何度起きたことか。寝袋じゃなく、掛布団と敷布団にでもすればよかった。気づかないうちに異世界に浮かれていたのか。
「人は誰でも苦労してますよね。それはそうと今日は王都に着きます。少し歩きますけど、王都を見たらその疲れもとれるかと」
「僕はこれでも21世紀から来たんだぜ? 王都ごときで……ねえ?」
********
「すっげえ…………」
「言葉を失うほどの壮大さでしょう?」
異世界の街並み、獣人に耳のとがったエルフのような人、いい匂い。市場には活気があり、二つも問題を背負っている国とは思えない、街ゆく人々の目にある底なしの明るさがある。
「では、昨日から赤い実しか食べてないので何か買って食べましょうか」
「そういやそうだった」
思い出したようにおなかが鳴る。赤い実とは昨日ルルが教えてくれた食べ物(?)で、見た目は前の世界で道端によく生えていた赤い実だが、味がポップコーンだった。
おいしいはおいしいが、いかんせん腹にたまらないので腹ペコなのである。それをあおるように香る食べ物のにおい。
少し歩いて探す。
「どれがいいですかねー」
「いくらあるんだっけ?」
「二フレストラ
何がどれだか全然わからないけどどれもおいしそう。
「ここなんてどうですか?」
ルルが指さしたのは白い生地で何かを包んだ
「ここ誰も並んでないし、人気ないんじゃない?」
「大丈夫ですよ。おいしいにおいが……ほら」
「まあルルの金だし、いいよ?」
少し外れたところにあるせいか、
「すいませーん! これ二フレストラ銅貨分ください」
ルルが頼んですぐ笹のような葉っぱに乗った小籠包が四つやってくる。久しぶりのまともな食事、つばを飲み込み、口にスプーンのようなもので運ぶ。かみしめる、汁があふれ出してき――
「「熱っ」」
まあ、お決まりですよね。熱いけど、味は最高。人気がないのが本当に不思議なくらいだ。さぞかしルルも喜んでいるだろう。
「これ、おいしいね」
「…………」
「ルル? ルル?」
返事がないので横を見るが、いない。
ムム? 声が聞こえ――
「ここで働かせてください! ここで、働かせてください!!」
カウンターに乗り出し、小籠包を口に含んだまま店員に迫るルルがいた。いや、仕事探すって言ったけど。王都で見つけようって言ったけど。
いくらなんでも早すぎじゃありませんか??
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