第6話
「この街道をまっすぐ半日行くと王都フレストランです」
「フレストラン……」
いかにも異世界という感じのネーミングである。でも歩きで半日か、結構ハードだな
「あっそういえばここってなんて国でこの街はなんていうの?」
「そうですよね、そこからですよね。ここは聖フレストラ王国です。王国ですが王がいません。数千年以上前に天のかなたに消えたとされる竜を王としているからです。国教はフレストラ教です。そして、ここはキノサナという第三の都市です」
「ふむふむ、そういえば今日はどこに泊まるの?」
「今日は……野宿です。正確にいうと道中に少し治安は悪いですが、泊まれそうな空き家が多く散在している場所があるのでその空き家のどれかで睡眠をとりましょう」
野宿……空き家……治安悪い……
「ワイルド……」
「そうだ! この世界のこともっと説明します」
さらっと無視される。
「……ありがとう」
「さかのぼること百年前、鬼王率いる鬼族が聖フレストラ王国に攻め入りました。もともと共存していたそうなのですが、数百年前に鬼族が島に移住したそうです。そのきっかけが聖フレストラ国民の差別だったとかなんだとかで……移住後は島でつつましく暮らしていたそうなのですが侵攻の一年前に族長になったレイヴァン・カーターが大多数の味方をつけて侵攻を始めました。そしてレイヴァンは鬼王と呼ばれ恐れられることとなりました。しかしそれは一年も続かず、鬼族は突然侵攻を止め姿を消しました」
差別され隔離された人々のたまった鬱憤が侵攻という形で現れる。何とも現実味の強い話だろうか。しかし、それにしても
「突然……」
「はい。国の公式発表では軍が封印に成功した、ということになっていますがその発表があったのは姿を消した一か月後だったそうです」
「怪しく期間が開いてるね」
「そうなんです。でも封印されているというのは本当のようで鬼族の砦の一つに強い結界が張られていて、今でも軍が見張っています」
軍が今でも見張っているということは……
「いつ目覚めてもおかしくないってことか」
「そういうことです。そしてその侵攻の直後から竜人会という集団があらわれました」
「竜人会……」
「竜の後継者だと名乗る集団です。正確には一族だそうですけど」
怪しい……のか? 侵攻に一枚噛んでいそうではあるが
「はあ、それで?」
「その侵攻の五十年後、つまり今から五十年前に次は魔獣という存在が姿を現しました」
「魔獣……」
「はい。これはファーリアス・ヴォゼリアスという女性とその子孫のことです」
「それは、その人たちはヒトなの?」
「ファーリアスは一人の村の小娘でした。しかし出稼ぎに行った先のフレストランである男に恋をして結ばれたかと思いきや、彼にはほかに本命がいてもてあそばれていただけだったんです。それを知ったファーリアスは相手の女性もろとも彼を刺し殺し山にこもりました。そしてそれから少したって山から下りてきた彼女は人の形をしていませんでした。そしてニンゲンを喰らいすべてを破壊する魔獣という存在が誕生しました」
よくある悲劇から、さらなる悲劇へ……か。重い話が続くなあ。
「それで、その魔獣は封印されて……「ないです。しかし幸いなことにファーリアスだけ封印されています、四十八年前に結成された五人組によって」…………つまりこの国は二つ爆弾を抱えて、魔獣の危険にもさらされていると。あれ? でも魔獣にまだ遭遇してないよね? そんなに数は多くないの?」
「魔獣狩りと呼ばれる人のおかげで数は減っていますが、まだまだたくさんいます。ですが魔獣は夜行性で森などの郊外にすんでいるので、まだ出会っていませんがそのうちいやでも会えますから安心してください」
「……えぇ、安心できない。めっちゃ怖い」
手汗も震えも止まらない。ガクブル状態である。異世界って大変。
「と、こんな感じでしょうか。思い出したり補足があれば随時話します。それから……木の棒とか拾っておいてください。フレストランに着く前にアキカゼくんのいう覆面ズと一戦交えることになるでしょうから」
「木の棒で大丈夫なの?」
「はい。相手も子供二人だと油断しているでしょうし、ナイヨリハアッタホウガイイトオモイマス」
説得力のかけらもない。なぜならそういうルルの目は明後日、いや来月の方向を見ているからである。
「もっといい武器はないの? ルルの魔札とか、投げたりするくらいはできるし」
「アキカゼくん投げれるんですか!? モノを?」
「えっ……うん、多分」
これは投げるのに何かコツがいるから素人にはできないはずなのに的な反応で合ってる?
「人間って本当にモノを投げることができたんですね」
「……できるよ。その強者の集いにモノを投げる人はいなかったの?」
「言っている人はいたんですけど見たことは……」
「!! ルル自身は投げれない……の?」
「はい! 投げるという動作が理解できません!!」
あぁ、重症だ。
「あーじゃあ今ちょっとどんなふうに投げてたかだけ見せてもらっていい? それと今まで魔札をどんな感じで使ってたのよ。自分的にはパシュッと投げるようなイメージだったんだけど……」
「ダブル【衝撃】パンチのようにこぶしに装着するか、手に乗せて息で吹いてました」
あっ予想外のところから。そっちのほうがかっこいいかも
「そもそも戦いとかしてなかったので……じゃあ投げる真似いきますよ! とくとご覧あれ!!」
…………そこにはトルネード投法のごとく体をひねった後、アンダー気味に腕が出るも素直にリリースせず、手首を返して投げるという奇妙な踊りを繰り返すルルの姿があった。
「あーあーあーストップストップ。一回でいいよ。うん。そうだねヤバさを十段階で表したら九十九かな。三桁いかないようにこの点数にしといてあげたから」
衝撃を受けた様子のルル。
「九十九ですか……まさかそこまでとは。ちょっと辛口……ですよね?」
「いや、甘口。はちみつ頭にぶち込まれたくらい(?)甘い採点」
もう涙目なルル。
「ひぇぇですぅ」
「うん。直すのはアマゾン川全部埋め立てるくらい時間がかかりそうだからまた今度にしようね。投げるのはとりあえず任せちゃって俺に」
「はひぃぃ」
もはや泣いている。
「…………いざ王都フレストランへ!!」
気まずい雰囲気を変えるべくこぶしを掲げて高らかに宣言する。それに胸の前で小さく握りこぶしを振って応えるルル。覆面ズ! 来るならとっとときやがれ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます