シ
「セレン……こっちの仕事は落ち着いた所だ……」
酒場のカウンター裏にある調理場でセレンが皿を洗い終えると丁度、宿の主人が
「またすぐ忙しくなるだろうが、今なら大丈夫だ」
表では
「行くか……セレン?」
セレンは無言でその言葉に
「旦那の事だ、大丈夫さ」
主人がセレンの肩を軽く叩き先にカウンターを出て、セレンは落ち着かない様子で後ろを付いて行く。
「おっ!? セレン! 親父! 上がるのか? 何だよセレン!? そんなしけた顔してんじゃねぇ!
セレンはもうここでは素顔を
「ガウェインの
スーの言った通り、この店に集まっている
「お前ら、悪いが俺達は少し外すぞ! 何かあったら上へ声を掛けてくれ!」
主人は酒場を
「おーう! 了解だー親父ー! ガウェインの旦那によろしく言ってくれ! 早く戻って来いよ!? 俺達はまだまだ飲めるぜ! ハッハッハッ!」
耳に特徴的な傷のある
「良かった……目が覚めて……」
二十段ある階段をまっすぐ登り右に
「セレンはヤブ爺におじさんの
スーは嬉しそうに笑いながらセレンの話をしている。
「お前さん達のお陰で
別の意味で嬉しそうなヤブ爺も
「旦那! 目が覚めて良かった! まだ今月の宿代を頂いていませんぜ!」
そう冗談を言いながら、三人の話に割って入った主人は笑顔でガウェインと拳をぶつけ合い挨拶する。
「そうか……スー、ウル爺、マレック、ありがとよ……」
セレンはその様子を見て扉の前でバツが悪そうに立ち尽くす。
「セレン! お前もな! その……助けられたな……本当にありがとう……」
ガウェインは目覚めてから初めてセレンと目を合わせると、少し
「セレンの料理はすっごい美味しくて、もうみんなの人気者なのよ!」
スーはそう言って笑いながらガウェインの
セレンの作る料理は働き出したその日の内に
「お陰で酒場はずっと
マレックは嬉しそうに笑いながらセレンの背中を繰り返し
「今はまだ動く事は出来んだろうが……何とか
隅々まで
「おーい! 親父ー! 酒だー、早く次の酒を持って来ーい! ガウェインの旦那が起きたってよー! ヨシお前ら! これから旦那の
「もう朝から何回もしてるけどねー、乾杯……」
スーはガウェインのベットの上に
「ハァー、うるせーなーアイツら……休む
マレックはガウェインに深く頭を下げ
「おう、仕事の邪魔してすまなかったなマレック……」
「何いつまでも暗い顔してる……? 元は俺から売った喧嘩だ……」
セレンは
「セレン、これは俺がお前にした事の結果だ……。俺はお前の大切な者を自分の
マレックが去り、スーやウル爺も話が尽き、部屋が静まり返った頃合いを見て、
「別に殺されたって文句は無かったんだ……」
アクロの件以前に、ガウェインは何の罪もない者を
どちらかと言えば、悪党相手の案件や、善人を相手するにしても金持ちを相手に少し
「あのまま放っておかれても良かった……」
そもそも、昔から長い付き合いがあり、ずっと仕事や生活で世話になっているマレックも同様に、汚い、
「アクロを助けに行くんだろ!」
ここは周りに差別されたり、傷付けられたりして心に傷を抱えた者、様々な事情で行き場をなくし流れついて来た者達が集まって出来た場所。皆、心根は良い者達で、困っている者の為に力を振るう事をこそ
「本当に甘い……お前は……」
だがあの日……たまたまこの宿を
「ウル爺、俺はどれ位で動けるようになる……?」
それに実際にアクロに出会うまでのガウェインはクロノヒトの少女が一人で東の大陸を彷徨うよりは貴族の元で過ごす方が良いに決まっていると本気で思っていたのだ。
「そうだな……お前さんの事だ……もう後ひと月もあれば動ける様にはなるだろう……」
それがセレン達と関わった故に揺らぎ、アクロの事に関しては消化しきれない気持ちが胸に残っており、今もずっと気になっている。
「そうか……分かった。ウル爺……残りの
そしてそれとは別に、セレンのお陰で過去の自分と
「そういう事でセレン……お前は今日でクビだ……。それでだ、アクロの件、急ぐ気持ちは分かるが少し俺にお前の時間をくれないか?」
そしてガウェインはまた思いついた事をすぐに口にしてしまっている。
「セレン……お前にひとつ
つくづく自分は
「俺がお前を
SEREN ─ IS A EX-NAMELESS BLACK CAT ─ [ 黒猫のセレン 〜 約束の旅 〜 ] 小桜八重 @kozakura-yae
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