プリンツ・オイゲン一代記、おまけの? カップル話
マリア・テレジア(改)は、フランツと温室を散歩しながら、オイゲン公の活躍話を思い出していた。
「でもね――史実だと、将来、フランツの大敗北で、オイゲン公の汗と涙、そして、みんなの血を流した結晶、あまたの大苦労が、全てムダに……水の泡に……」
ため息すら出ない残念な話である。ウィーン中から、いや、オーストリア大公国、ハプスブルク帝国及び、ハンガリー帝国中から、フランツが憎まれ、石を投げられても、いたしかたがない話であった。
「どうかした?」
「う、ううん! ちょっと、フランツのお祖父さまの活躍を、オイゲン公から聞いたのを思い出していたの! フランツそっくりの!」
フランツは、温室の通路の床に敷かれている石畳を見つめたまま、しばらく固まっていたが、なんとか声を絞り出す。彼も自分には軍事的才能は皆無であると、分かっていたが、マリア・テレジアには、知られたくなかったのである。
「あ、うん……まあね。ま、顔だけ……いや、なんでもない! あ、コレ飲む?」
そう言うと、横にいた侍従のスルラド伯爵に持たせていた「なにか」が入った、蓋をしたままのコーヒーカップを、マリア・テレジアが差し出す。
「なにこれ?」
「マリアンナ大公女特製ウインナーコーヒーだとか言ってた……カールにもらったんだけど……なんだか普通じゃない雰囲気がして……」
「いらない。それ飲むと、お腹壊しちゃうわよ……」
『マリアンナ特製ウインナーコーヒー』
それは例のコーヒー1:ホイップクリームとアーモンドシロップ9の割合で淹れられた、もはやコーヒーなのかも分からない、正体不明の「超激甘ウインナーコーヒー風味の甘味ドリンク」であり、カール公子も、さすがに無理だと、兄によこしていたのである。マリアンナ以外には、体に毒! そんな代物なので、彼の判断は正しかった。
「そう、やっぱり?」
話が逸れたのを確信して、安堵したフランツは、そんな返事をしてから、スルラド伯爵に、「飲んでいいよ」と、返していた。
『もし将来、フランツが戦争に行くとか、寝言を言いだしたら、飲ませてもいいかもしれない』
そんなことを思いつつ、マリア・テレジアは、にっこりとほほ笑み、フランツは、その美しくも神聖な笑顔に、目が釘付けになっていた。
そして、この架空戦記の行き先は、まだまだ分からない……。
***
『わたしの息子でいいだろう! 決定済なんだから!』
そんなセリフを言った、オイゲン少年の「不自然に早逝した父」は、そんな状況に巻き込まれた息子を心配して、自分の在るはずだった寿命を、彼に分け与えたのかも知れない。
【 小話:プリンツオイゲン一代記:了 】
~ The End or to be continued ~
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こちらで、まだまだ活躍中です。『テレジア奇譚』https://kakuyomu.jp/works/16816927860312026654
プリンツ・オイゲン一代記 相ヶ瀬モネ @momeaigase
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