第11話 人間界


 「よく、ここが分かったなって?

 牛頭先輩と馬頭先輩に教えてもらったんだよ。

 とんでもない亡者は、今日、人間界で退院するって。

 へへへ、ここが病院なんでしょ。

 怪我や病気を治すところ。

 病院から出たら退院」


 「うん。勉強してきたの。

 三途の川にいてる、奪衣婆や懸衣翁は人間界のことに詳しいからね」


 「ほら、見て。

 角も無いの。取ってもらったんだ」


 「服は虎皮のブラとショートパンツだけじゃおかしいって言われたから、その上から、このヒラヒラしたのを着ているんだよ。

 人間界の服は、なんだか頼りないよね」


 「ね、それより、どうしてきみは、地獄じゃなくて、人間界へ戻れたの?

 あのとき、閻魔大王に向かって、あたしを、こうやって人間界へ転生させるため、地獄へ落ちることを選んでくれたんだよね」


 「因果応報?

 あたしが教えた、因果応報の意味。

 悪行だけじゃなく、善い行いをすれば、いずれ良いことが自分に戻ってくるっていう……。

 うん。自分の身を捨てて、女の子を助けることは善いことだろうって。

 ええ! それに賭けたの? 博打が過ぎない?」

 驚く元鬼娘。


 「因果応報は仏の教えだろって……。

 ……あ! そう言うことか!

 善い行いをしたきみを地獄へ落としたら、閻魔大王が仏の教えを無視することになるものね。

 そうそう、邪見の罪。

 あははは、閻魔大王が第六層の焦熱地獄へ落ちちゃうよね」

 元鬼娘は楽しそうに言う。


 「ねえねえ、あたしさ、学校や会社ってのを見てみたいな。

 あと、ほら、透明な海で泳いだり、針の生えていない山を登ったり……。

 本当に? 連れて行ってくれるの?

 やった! 約束だよ!」


 「それと、あたし、人間界で頼るあてはないの。

 きみに頼っちゃっていいよね。

 まさか勝手にしろって言わないよね。

 嫌だって言っても、全面的に頼っちゃうからね。

 へへへ、よろしく♪」

 嬉しそうな元鬼娘の声が遠ざかっていく。

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八大地獄と鬼娘 七倉イルカ @nuts05

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