シャッター街化が進む猿上町の『リバーウエスト商店街』を活性化させるために、若い世代が青年会を組織し、婚活パーティーを企画します。 ここまで読んだあなたはきっと、この作品を現代ドラマのラブコメ作品かな……と思うかもしれません。僕も最初そう思いました。しかし、読み進めていくうちにそれが大きな間違いだった事に気付きます。
この作品のジャンルはラブコメではなく『現代ファンタジー』なのです。読み進めていくうちに不思議な出来事や謎が次々と出てきて、ミステリー要素やファンタジー要素も相まってどんどん面白くなっていきます。
三十万文字を超える大作ですが、ちゃんと完結しているので最後まで読めます。是非読んでみて下さい。
古き良き町・猿上町を舞台にしたファンタジー群像劇です。婚活パーティーから始まる物語は、スズ(硯徳)とその妹・杏夏、商店街の仲間たちが織りなす日常のやりとりを通じて、町の温もりを描きながら、次第に不穏な影を帯びていきます。
本作の魅力は、伝承がただの昔話ではなく、登場人物の運命を大きく左右するルールとして機能している点にあります。「猿上町の風になる」「鬼になる」——この町に根付く伝説は、町の歴史そのものであり、スズや秋穂、杏夏たちの人生に深く関わっていきます。伝承が物語の舞台装置にとどまらず、登場人物たちがどうそれを受け入れ、あるいは抗うのかが、物語の鍵となってきます。
本作は町そのものが戦いの場であり、そこに暮らす人々の思いがぶつかり合います。婚活パーティーに集う青年たち、商店街の仲間たち、町を愛する者と離れようとする者——そのすべてが、物語の歯車として機能し、読み手を物語の世界へ引き込みます。
そしてタイトルの『ロールプレイング・ラヴァー』には、本作の根底にあるテーマが隠されています。「誰かの役割(ロール)を演じる」ことの意味、恋とは何か。その答えは、スズの歩む道の先に待っています。風に導かれる運命の恋、その結末をぜひ見届けてください。
ほのぼのとした婚活パーティーから始まる本作の序盤は、恋の駆け引きやカップリングを描いたロマンス系群像劇の様相です。しかし読者は間もなく、きな臭い背景や不穏な事件に触れ、印象を改めるでしょう。
物語には巧妙な仕掛けが散りばめられ、登場人物の大半が抗い難い運命に引き摺られて、予期しない結末へと導かれます。
「鬼に引かれて死んだ者は鬼になるという言い伝えもある」(第一章三話より)
舞台は、とある地方都市。当初は因習村の亜種のようにも思えましたが、リアティたっぷりで、衰退する商店街など社会問題とリンクし、隣り合わせの犬猿の町について活写した部分は、ルポルタージュさながらの迫力と説得力があります。
そして、物語で横軸となるのが、臨床心理学です。随所で実践的に紹介される知識は、どれも興味深く、参考になるものです。
一方、それらやマインドコントロールが小ネタ以上の意味を持つことになるとは予想できませんでした。終盤が近付くにつれて存在感を増すトリックスターの配置が絶妙なのです。
伏線回収の爽快感を奪うことに繋がる為、中盤以降の解説は省きますが、読み進めるうち、繰り返し自問する点があったことを告白しましょう。それは、本作のジャンル分けです。
ミステリー要素、ホラー要素、または伝奇&ファンタジー……更に家族愛や郷土愛も語られ、純文学的な要素もたぶんに織り込まれています。果たして、何が一番相応しいのか?
愚問でした。
読後の結論は、練り込まれた一級のエンタメ作品であるということです。しかも全くの新感覚で、近い将来、この作品がレールを敷いた「複合的な小説」が流行るような予感もします。
それはバランスが難しく、容易く模倣できるものではないでしょう。しかし、本作は精緻な構成と巧みな筆致で最終幕に向かって疾走。斯くてエンディングに到達した際、読者が得られるカタルシスは本物です。
作品の舞台はシャッター街化しつつある商店街で、その活性化のために企画された婚活パーティから物語は始まります。
このレビューは1章を拝読した時点のものとなります。1章では婚活パーティに関係する人物による骨太な人間ドラマが見ものであり、その空気感は古き良き時代を存分に感じさせるものでした。
1章の終盤に婚活パーティの指南役として、輝冥(コウメイ先生)が登場するのですが、これによって空気が一変します。主人公たちの心の隙間に入り込み、場をかき乱すトリックスター的存在に見えて、ワクワクが止まりませんでした。
ここまでの雰囲気は完全に現代ドラマなのですが、ジャンルは現代ファンタジーです。夏目漱石の『こころ』を絡めた印象的なプロローグに始まり、あらすじによると犯人不明の連続放火事件が関係するミステリー要素も含むとのことで、この先の展開がどうなっていくのか本当に見当がつきません。
1章時点で期待感があり過ぎるため、皆さまにおすすめしたい作品です。
大杉巨樹様の作品『ロールプレイング・ラヴァー』を読み進めていると、どこか懐かしくも切ない風が心に吹き抜けていくような感覚に包まれました。硯徳の抱える静かな喪失感や、町の伝承が潜む不思議な空気感。そのすべてが、忘れかけていた記憶をそっと呼び覚ますようです。
田舎町に漂う停滞と、少しずつ広がる希望の芽吹き。妹の杏夏が少しずつ立ち直る姿には、日常の中で紡がれる優しい物語の温もりがありました。謎めいた輝冥の登場が、まるで人生という物語に新たな幕を開ける導入のようで、不思議と胸が高鳴ります。
人々が互いに支え合い、ゆっくりと未来を切り拓いていく様子に、読む者としても「一緒に歩いている」感覚が芽生えます。この物語は、風に乗せて大切な何かを届けてくれる――そんな優しい奇跡のように感じられました。
つくづく面白い。他人のオフレコな話とか聞くのってたまんないですよね。
古くからある商店街の課題、最新の心理テクニック、そして人間味溢れる登場人物たち(キャラがガッツリ立ってる!)、近年巷を賑わしている社会問題、歴史・文化・伝承など多岐にわたる知見・素材を組み込みながら、陰謀の糸でしっかりまとめ上げ、物語の構図を読者にわかり易く提示してくれます。
面白くて面白くてついついページをめくっちゃう。へー。ほー、おおっ。もう言葉ないなあ。この小説は僕の人生を豊かにしてくれます。
できることなら商店街の住人となりバー・アンドレで飲みたい。そこでヒロイン達の誰がいいかなんて与太話でも…… あ、僕も纐纈と同じく秋穂先生推しです。いや桃寧さんかも。(巫女コスプレーヤーって⁉︎)
まだ途中ですが最後まで追いかけますっ。
いまの日本によく見られる昔ながらの情緒はではあるけれど、特に栄えてもいない地方都市、猿上町。
この町を舞台とした恋愛ミステリー。
主人公、滝尾硯徳の参加した街コンから物語は動き出します。
物語の随時に散りばめられた違和感。
挿しこまれた文章。人名。地名。怪異譚の趣。
それらは伏線なのか、物語の道具立なのか。予断を許さないミステリー。
重層構造の物語の結末とは。
……とは書きましたけれど。
本作は、重々しいばかりの話というわけではありません。
コミカルな会話や場面も随筆もあり、楽しく読み進められます。
主人公の妹である滝尾杏夏など、とても微笑ましいキャラクターです。
ジャンルで一括りにできない物語を求めている方、ぜひ一読了ください。
主人公で塾講師・硯徳(スズノリ)は、両親を火事で亡くしてからは妹(料理下手)と2人で暮らしているが、何かと問題の多い妹への愛が強く25歳にして彼女歴無しだった。
そんな折、町を活性化するためスズノリも参加している青年部で町主催の婚活パーティを催すことになった。男女20名ずつの参加者にはスズノリも妹もいた。
隣町から来た男たちがパーティを台無にさせようとしたが、青年部たちの用意周到さで事なきを得る。しかし、そのパーティのあとでは会場となったレストランが放火されるという事件が起こる。しかしそれはさらに大きな事件の始まりだった。
感想:この物語の主な舞台である猿上町では、「猿上町では死んだら風になる」「鬼に魅入られたら鬼になる」という不穏な言い伝えがある。
また、冒頭で夏目漱石の「こころ」について語る不気味な男など、各所に様々なキーワードが配置されていて、町の住人たちの日常のなかに潜む何者かの存在が感じられ、非常にミステリアスである。
特に、町の住人達の背景や行動がリアリティ溢れていて、猿上町がまるで実在の町のように感じるところもポイントが高いと思う。
(妹さん、お味噌汁にシュールストレミングはやめたほうがいいと思います(;゚;Д;゚;))
オススメです🌳
主人公は両親を不慮の事故で亡くし、妹と一緒に生活を送っていた。主人公はこの妹が自立できるまで、兄として見守っていく覚悟でいた。その一方、主人公は私塾の講師として子供たちの人気者でもあった。
そんな中、商店街で街コン、つまりは商店街を舞台とした婚活イベントの企画に、主人公も参加することに。このイベントは、下火になってきている商店街を盛り上げるために企画したものだった。注目された参加女子は、春夏秋冬の文字が入る名前を持つ女性たちだった。その中には主人公の妹や主人公と親しい剣道女子の名前も挙がっていた。そして意外だったのが、作家の放蕩息子先生の正体で……⁉
つつがなく、婚活イベントが催されるはずが、犬猿の仲である隣町の妨害に遭ってイベント乗っ取られるかもしれなくなり……。
さらにその夜に火災が発生したことで、商店街を要する町の人々の様々な顔が明らかになっていく。
一体主人公はどうなってしまうのか?
そして主人公の妹は立ち直れるのか?
隣町と犬猿の仲という舞台設定が、ストーリーと合っていて、相乗効果を生んでいます。物語の中で「御神木」と引けを取らない大樹が出てくるのですが、小生的にそれが人々を見守っているようで好きでした。
是非、御一読ください。