空集合の夜
まぁ
空集合の夜
耳障りな蝉の鳴き声を聞いて目が覚めた。
ボロアパートの2階の一室
六畳間の丁度中心にある布団から這い出て
私は寝足りない目と頭痛を堪えながらベランダに向かった
アパートの近くには木々が茂っており、
そのうち侵食されそうな雰囲気だ。
そのうちの手が簡単に届く位置にある木にちょうど
睡眠を阻害する張本人が至近距離で鳴いていた。
「生命の鼓動をまじかに感じる...
じゃねーようるせぇよ寝れねぇよ!!!」
セルフボケツッコミを誰もいない中やっている自分が恥ずかしくなった。
「はぁ。何言ってんだ私...」
「雲で何も見えねぇな〜」
物思いに耽りながら、生ぬるい空気を吸い込んでは吐く。
すぅ、はぁ、すぅ、はぁ。
思考を整理していく。火照った身体が冷やされていく感覚を感じる。
それについて何か思うことがあるのかもしれないけれど
自分でもよく分からないし、第一聞いてくれる人間がいるわけではない。
聞こえるのは蝉の声、やけにうるさくて仕方がない。
少ししたのち、雲に隠れていた日が段々と存在を主張するかのように誰もいない街を照らし始めた。
「もう日の出か...結局まともに眠ることもできなかったな。」
何気ない日でもそうでない日でも、変わらない日の出にうんざりしながら
二度寝しようとベランダから寝室に戻り眠りにつこうと布団に戻った。
息を吸って。ご飯を食べて、それを吐いてしまって、いつの間にか夜になって、眠ろうとして眠れなくて、そしてまた日が上る。
そんな生活に何も疑問なんて思わない。
”異常“なのだろうか。
普通がもう無いのだから関係ないか。
ここには誰もいない素晴らしい世界
なのにうるさく響く蝉の声。
いくら鳴いたって、すぐ死ぬんだから。
輝いたって。どうせ消えるんだから。
未来を作り上げるのがそんなに”いいこと“
なのかな..?
ここは空集合
一人だけの世界。誰もいない世界。
そこに社会性はなかったとしても
私にとって居心地がよかった。それは確かだった。
でも、ずっとそこにはいられない。
形ある物はいつかは壊れてしまうし
自分の体も段々と朽ちてしまう。
そこらに散らばった死んでいったセミのように
私は輝くことはない。考えもしない。
ひっそりと消える夢のように
私はいなくなるのだろうか。
「考えても仕方がない。
今生きていればもうそれでいいか。」
完全に眠りにつく。
◇
数時間後
「ドンドン」
戸口が叩かれる音で目が覚めた。
「いるんだろう?××××?」
やつだ。私は押入れの中に隠れる。
しかし手狭な部屋だ。すぐ見つかってしまう。
「要件は..?」
「前話したが、この世界には俺と君しか人間は存在していない。」
「だから..わかるだろう?
人類の未来のため俺と交尾してくれないか?」
「絶対に嫌だ!誰がお前なんかと!」
「文字通り、もう誰もいないんだよ。
俺とお前だけ。」
「お前が強情だから、世界が滅ぶ。
それでいいのか?」
「もう誰もいないし、誰も責める人なんていない。
もういいじゃないの!何もしなくたって!」
「はぁ、そうかい。
この手は使いたくなかったけどな」
私の服を無理やり剥ぎ取って...
そこからはもう。地獄でしかなかった。
「殺して。」
「殺して。殺して。殺して。殺して。殺して。殺して。」
私はもう、何も考えたくなくなった。
結局私の世界は滅ぶ。無関心な大きな世界のため。
そこにもう彼女はいなかった。
もう蝉の鳴き声も聞こえない。
何も見えない。
空集合の夜 まぁ @Mla_yama3467
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