第3話 館の真実

冷たい雨が再び降り始める中、僕は館を後にした。しかし、手に握られた赤い瞳を持つ頭蓋骨が重く感じられ、足取りは重かった。あの館で何が起きたのか、そしてこの頭蓋骨が何を意味するのか、全てが謎のままだった。


不安と恐怖が入り混じった感情の中、僕はどうしてもその頭蓋骨を調べなければならないという衝動に駆られた。近くにあった古びた電話ボックスに駆け込み、町の図書館の番号を調べた。何か手がかりがあるかもしれないと、雨の中を図書館へと向かった。


図書館の薄暗い室内に足を踏み入れると、どこか落ち着かない気持ちで棚を漁り始めた。古い書物の中に、あの館に関する情報があるかもしれない。何冊かの書物を手に取り、ページをめくり続けると、ついにその館に関する記述を見つけた。


館は「断罪の館」と呼ばれ、かつて異端審問所の役割を果たしていた場所だった。多くの無実の人々がここで罪に問われ、処刑されたという。彼らの魂は恨みを抱き、館に取り憑いている。その怨念が、あの生首たちの正体だった。


さらに読み進めると、その怨念を鎮める唯一の方法が記されていた。それは、館の中心にある「断罪の部屋」に封じられた「審判の頭蓋骨」を、元の祭壇に戻し、儀式を行うことだという。赤い瞳を持つ頭蓋骨がまさにその「審判の頭蓋骨」であり、これを正しい場所に戻すことで、怨念を鎮め、館を解放することができるというのだ。


しかし、その儀式には大きな代償が伴うとあった。儀式を行う者は、怨念を受け止めるために自身の魂を捧げなければならない。つまり、僕自身が犠牲にならなければならないということだ。


「これが…俺にできることなのか?」


恐怖と葛藤が心を締め付ける。だが、あの館に囚われた魂たちを解放するためには、僕がやらなければならないという使命感が芽生えた。館に戻ることを決意し、僕は図書館を後にした。


再び館に足を踏み入れると、あの不気味な静寂が僕を迎え入れた。生首たちは依然として館中に散らばっており、僕を無言で見つめているように感じた。しかし、もう恐れてはいられない。僕は「断罪の部屋」を探すため、地図を頼りに館の奥へと進んだ。


廊下を進むうちに、徐々に耳に届く囁き声が大きくなり、生首たちが再び動き出したのがわかった。だが、僕は怯まずに先へ進んだ。儀式を行い、この館に終止符を打つことが、唯一の道だと信じて。


ついに「断罪の部屋」にたどり着いた。中央には祭壇があり、その上には古びた石板が置かれていた。僕は手に持った頭蓋骨をそっと石板の上に置いた。その瞬間、部屋全体が震え、周囲の生首たちが一斉に叫び声を上げた。頭蓋骨の瞳が燃えるように赤く輝き始め、まるで生きているかのように動き出した。


「これで終わりだ…」


心の中でそう呟きながら、僕は儀式を進めた。手順通りに呪文を唱え、頭蓋骨に手をかざした。その瞬間、激しい痛みが全身を貫いた。怨念が僕の中に流れ込み、魂が引き裂かれるような感覚に襲われた。しかし、僕は必死に耐え続けた。魂が抜け出しそうなほどの苦痛の中で、儀式はついに最終段階へと進んだ。


赤い瞳がさらに激しく輝き、部屋全体が明るい光に包まれた。生首たちの叫び声が止み、館全体が静まり返った。そして、頭蓋骨の瞳が静かに閉じ、光が消えた。


僕はその場に崩れ落ちた。全てが終わったのだろうか?目を開けると、館の中には生首は一つもなく、静寂が戻っていた。魂が解放されたのだ。


しかし、僕自身もすでに限界だった。意識が遠のく中、僕は館の外に向かって歩き出した。扉を開けると、外には朝の光が差し込んでいた。雨は止み、青空が広がっている。


「これで…終わったんだ…」


力を振り絞り、僕は館の外へと一歩踏み出した。その瞬間、僕の体は静かに崩れ落ちた。館に封じられていた怨念は確かに消え去ったが、僕の魂もまた、館と共に消え去ったのだ。


青空の下、僕の体は静かに眠りについた。その上を、一羽の鳥が高く飛び去っていった。


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だれの首? 白鷺(楓賢) @bosanezaki92

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