第2話 呪われた過去

真っ暗な部屋の中で、僕は恐怖に震えながら座り込んでいた。生首が何かを訴えかけるように、僕の足元で囁き続けている。「助けて」という声はか細く、しかしその絶望感は鮮明に伝わってきた。この生首は、ただの物体ではなく、何かの意志を持っている――それだけは確信できた。


どれほどの時間が経ったのか、やがて部屋の中にかすかな光が差し込んできた。目が慣れてくると、部屋の隅に一つの小さな扉があるのを見つけた。僕は恐る恐る立ち上がり、その扉へと歩み寄った。生首は再び静まり返り、ただ僕を見つめているだけだった。


扉を開けると、そこには古い階段が続いていた。下へと続くその階段は、どこへ導くのかもわからないが、この不気味な部屋から離れられるという希望にすがるように、僕は一段ずつ慎重に降りていった。


階段を下りきると、そこには広い地下室が広がっていた。薄暗い照明がぼんやりと灯る中、古い本棚が並び、中央には大きな石の祭壇が置かれていた。祭壇の上には、奇妙な形をした古代の遺物がいくつも並べられており、その中心には一冊の古びた書物が置かれていた。


僕はその書物に近づき、恐る恐る手に取った。表紙には古い文字が刻まれており、それが何を意味するのかは全くわからない。しかし、ページを開くと、その中に記されていた内容は、館の謎を解く手がかりになるように思えた。


書物には、この館で行われた忌まわしい儀式について詳しく記されていた。この館はかつて、ある狂信的な宗教団体によって使われていた場所だった。彼らは不死の力を得るために生贄を捧げ、その魂を永遠にこの館に封じ込める儀式を行っていたという。しかし、その儀式は成功せず、逆に彼らは呪われた存在となり、首だけが切り離され、この館に永遠に閉じ込められることになった。


「やはり、生首は彼らの…」


僕はその記述に戦慄を覚えた。彼らの怨念が、この館を支配し、今も生首たちを苦しめているのだ。僕が見た生首は、その呪いによって封じ込められた魂たちの一部であり、彼らは今もなお助けを求め続けている。しかし、その呪いを解く方法は書かれていなかった。


さらにページをめくると、一つの地図が挟まれていた。それは館の詳細な見取り図であり、隠された部屋や通路が示されていた。どうやら、この地下室のさらに奥に、もう一つの部屋があるらしい。その部屋こそが、呪いを解く鍵が隠されている場所なのではないか、という思いが頭をよぎった。


「行くしかない…」


僕は地図を頼りに、地下室の奥へと続く隠し通路を探し始めた。しばらくして、祭壇の背後に隠された小さな扉を見つけた。そこから続く狭い通路を、僕は慎重に進んでいった。


通路の先に広がっていたのは、異様に静かな部屋だった。部屋の中央には、再び石の祭壇が置かれており、その上には何かが封印されているようだった。近づいてみると、それは大きな鉄の箱であり、頑丈な鎖でぐるぐる巻きにされていた。


僕は箱に近づき、手を伸ばそうとした。しかし、その瞬間、部屋全体が揺れ始め、耳をつんざくような叫び声が響き渡った。壁に飾られていた生首たちが一斉に叫び声を上げ、僕を恐怖のどん底に突き落とした。


「何が起きているんだ!?」


混乱と恐怖で頭がいっぱいになりながらも、僕は何とか箱の蓋を開けようと必死に鎖を解き始めた。叫び声はますます大きくなり、箱の中からも何かが蠢く音が聞こえてくる。箱の中には、この館に封じられた何かがあることは間違いない。


ついに最後の鎖が外れ、僕は箱の蓋をゆっくりと開けた。その中には、一つの頭蓋骨が収められていた。しかし、それはただの頭蓋骨ではなく、燃えるような赤い瞳を持っていた。


その瞳が僕を見た瞬間、全てが闇に包まれた。


次の瞬間、僕は再び館の入口に立っていた。雨は止み、空には星が輝いていた。まるで全てが夢だったかのように、館は静かにそびえ立っているだけだった。しかし、僕の手には、あの赤い瞳を持つ頭蓋骨が握られていた。


「これは…一体…」


館から出ると、全ての記憶が断片的になり、現実感が薄れていった。だが、僕は確かに何かを手に入れた。それが何を意味するのか、まだわからないが、これで全てが終わったわけではない。むしろ、ここからが本当の恐怖の始まりかもしれない。


僕は館を背にしながら、再び降り始めた雨の中へと歩き出した。


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