第30話 天狗岩の向こう側

 メタルワームを解放したルキア達はビークルに戻った。

「なぁ、ルキア。ちょっと、寄り道してもいいかな? 天狗が出るって噂の天狗岩の近くまで来てるんだ」

 ニックの好奇心は留まることを知らない。

「わかったよ。ちょっとだけだぞ?」

 ビークルのパネルで岩のある場所を確認すると、今いる場所から一本道だということが分かった。


 ふと両脇に生える樹木や草花が視界にはいった。植物たちが金属であることは、外見だけでは見分けがつかない。だが着実にこの世界の金属化は進んでいる。メタルワームがどれだけ頑張ったとしても、世界の金属化は止められないだろう。


――どこまで世界は変わっていってしまうのか。


 一本道の脇に錆付いた看板が斜めに刺さっていた。書いてある文字は、錆のせいではっきりとは読めなかったが、立……禁……区域となんとなく意味は理解てきたが、そのまま進んだ。いきなり目の前に、天狗の顔のような巨大な石門が姿を現した。ニックはビークルを降りると、岩石の方へと駆けて行った。ルキア達もニックの後に続いた。


 天狗岩の前に立ったニックは、その壮大な景観に圧倒された。そびえ立つ石門は、高さ数メートルにも及ぶ巨大な岩石で、石門の両側には古代の文字や彫刻が施されていた。それらの彫刻には、複雑な幾何学模様や神話的な生物の姿が描かれていた。儀式的な意味をもつのだろうか。一体誰がなんの目的でここに置いたのか、それとも偶然ここにあったのか。神秘的な天狗岩の真ん中には、ぎりぎりビークル一台が通れそうなトンネルが真っ暗な口を開けていた。ずっと奥へと伸びる暗闇に吸い込まれてしまいそうだ。

「おお。これが天狗岩か。ホントに天狗の顔をしてるんだ。このトンネルは、一体どこまで続いているんだろう」

 終わりの見えない薄暗いトンネルが、ずっと奥まで伸びている。

「折角だからトンネルの向こうへ行ってみないか? ほんとに天狗に会えるかもしれないよ」

 何処へ行っても遠足気分の抜けないところはニックの悪い癖だが、あくなき好奇心には感心する。クラヴィスの知識欲に匹敵するだろう。

「天狗に会ってどうするんだよ」

 ルキアはツッコミを入れた。

「どうって……。会えたら面白いかなって」

 ニックは面白さでいろんなものを単純に判断する。小さな子供のようだったが、それがニックの長所でもあり短所でもある。

「はいはい。気が済むようにしてくれ」

 ルキアは呆れ顔で、手をパタパタさせて、どうぞご自由にとでもいうような仕草をしていた。


 ビークルに戻ると、トンネルの奥へとビークルを走らせた。

 トンネルの内部は狭く、岩の壁がところどころに苔や湿気を含んでいた。ぽたぽたと微細な水滴が滴る音が響いている。しばらくビークルに揺られると、トンネルを抜けた。


 トンネルを抜けると、景色は一変した。

 トンネルを抜けた瞬間、目の前に石壁に囲まれた幻想的な空間が広がった。空間を囲む石壁は、巨大なクリスタルのように光を反射し輝いていた。無造作に転がる岩石が、自然光のようにやさしい光を放ちながら、まばゆく輝いている。不気味なほどに静かで、風の音すらほとんど聞こえない。位置からすると山の中腹にあたるだろうか。

 ルキア達は別世界に足を踏み入れたような、そんな微妙な気の変化に気がついた。

「気の流れが変わったな……」

 ルキアは、微妙な空気の変化に気が付いた。

「ああ」

 ニックも気づいていたが、どんよりとした重たいものではないと判断したので気に留めないことにした。 


 じんわりと、四人の行く手を遮るように霧が現れ始めた。

「まずい。霧だ!」

 霧が出てきたことに気づいたルキア達は反射的に口を抑えたが、普通の霧であることに気が付くと口元に持って行った手を下ろした。


「なぁ、ニック。これ以上進むのは危険だな。こういう時は、無理に動かない方がいい。そこの開けた広場にビークルを止めて、焚火を囲んで野営しないか?」

「焔と華幻はどう思う?」

 ルキアは華幻と焔に聞いた。

「僕、もう眠い……」

 後部座席に座っていた幼い焔は華幻によっかかりながら言った。気が付くと、時間の経過を忘れていた。華幻は、眠り始めた焔にそっと毛布を掛けた。これ以上進むのは、幼い焔を連れては無理かもしれない。


 ニックはビークルを開けた広場の端に寄せた。四人はビークルから降りると野営の準備を始めた。

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レイスシーカー ~紅色の霧の彼方に~ 深山 有煎(ふかやま うせん) @Tendonworld

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