第二十四話 メタルワーム救出

 一人残ったリーダー格の男は、大声で話し始めた。


「あー。もう降参だ。降参。狙いはメタルワームなんだろ?  コアストーンはくれてやるから、持ってけよ」リーダー格の男はわざとらしく武器を投げ捨て、両手を上げてルキアたちの前に姿を現した。男の動きは、何かを企んでいるとは全くわからないほど巧妙だった。


 倒れ転がっていた小柄な男の腕が、微かにピクリと動いた。


「やっぱりこいつら、メタルワームのコアストーンを狙ってたんだ」ルキアたちの予想は当たっていた。


 ルキアたちからは男の背中は見えない。リーダー格の男は、背中の首の下のあたりにハンドガンとナイフを隠しもっていた。武器をかまえたままでジリジリと近づいてくるルキアたちの鼓動を読むように、心の中でカウントしながら反撃のタイミングを見計らっていた。


 倒れ込んでいたメタルレイスが起き上がろうとしたのだが、バランスを崩し大きな音を立てて転んだ。ルキアとニックに一瞬隙ができた。その瞬間をリーダー格の男が見逃すはずがなかった。


 素早く背中に隠してあった武器を抜き取ると、左手でナイフをルキアに投げつけ、右手でハンドガンを構えてニックに向けて発砲した。


 銃弾は運良くルキアの頬をかすめ飛んでいった。ルキアはすぐに反撃の準備を整え、容赦なく斬り込んでいった。刀を下段に構え、無言で切り込んでいく。ルキアは斜め上に向かって踏み込むと、体重を乗せて切り上げた。


「ウソ?」ルキアの素早い動きに圧倒された。次の瞬間、リーダー格の男の首が跳ねとんだ。男は、切り落とされた首の付け根を抑えながら緑色の液体を吹き上げながら地面に転がった。あまりにあっけない結末だった。「策士策に溺れる」とは、このことだろうか。


 ニックは出血した左腕を押さえながら、しゃがみ込んでいた。


「ちょっとかすっただけさ」幸いにもニックの弾はニックの腕をかすめたくらいで、傷は深くはなかった。


「力入れて押さえつけてて」ルキアはシャツを脱ぐと、ニックの腕を縛った。


「大丈夫かニック。それにしても、まさか緑色の血が流れる人間がいるなんてな」二人は倒れ転がる敵の残骸を眺めた。


「人間と呼べるかは謎だけどね」ニックは首をかしげた。


「半分機械で半分人間? 自分の目で見たってのに、まだ信じられないよ」目の前に転がる半分機械のメタルハンターはもう動かない。


 静まり返った戦いの場に、「カチャリ」と銃を構えるような音が聞こえた。


 二人がほっとしたのも束の間、突然「ボンッ」という爆発音がした。咄嗟にルキアとニックはしゃがみ込むと発射音がした方を見た。倒したはずの小柄な男が銃を構えている。しかし、何だか様子がおかしい。武器を手にした小柄な男の頭が吹き飛び、足元が緑色の液体で池のようになっている。誰かが男を倒した後のようだった。


「ちゃんと、生死を確認しなきゃ」女性型メタルレイスが、ルキアとニックに話しかけた。女性型メタルレイスの構えた銃口からは、硝煙がゆらゆらと立ち上っている。その姿は冷徹でありながらも、敵意は感じられない。機械だというのになぜか温かい。


「ありがとう。助かったよ」ルキアは状況を理解し、感謝を伝えた。女性型メタルレイスが敵を排除したことで、戦闘は終わった。


 「どうしてメタルレイスが俺たちを助けてくれたんだ?」ニックが痛みを堪えながら、構えたアサルトライフルの銃口をメタルレイスに向けた。


 ビークルの中に隠れていたはずの焔が、女性型メタルレイスにしがみ付きながらこう言った。「まって!  このメタルレイスは僕の母さんだ! 腕に巻いてるお守りは僕がつくったものだから、間違えるわけがないよ」焔が真剣な目で言った。


「ニック。このメタルレイスは味方だよ」ルキアがニックの構えた銃口を手で押し下げた。緊迫した状況の中で、ルキアは冷静に判断した。


「わかった」ニックは安全装置を掛けながら、銃口を下に向けた。


「あなたたちは、一人きりになった焔を救ってくれた。自分の子供の恩人を助けるのは親として当然よ。私は華幻かげん。よろしくね」華幻が言ったその言葉には、確かな感謝と誠実さが込められていた。メタルレイスとしての冷徹さとは裏腹に、深い親子の絆が感じられた。


「なんで、母さんはメタルレイスになっちゃったの?」焔は冷たい光を放つメタルレイスに、しがみつきながら聞いた。焔は愛する母親が変化したことに涙していた。


「どうしてメタルレイスになったのか自分でもわからないの。紅色の霧が満ちてきたところまでは覚えているのだけれど。檻の中で目を覚ましたら、金属質の姿に変わっていたの」冷徹な無表情の華幻が答えた。


「オレは信じるけど。ニック。お前はどうなんだよ」ルキアが言った。


「変な動きをしたときは、容赦なく撃つからな」ニックはそう言いながら、残弾を確認していた。その表情には警戒心が滲んでいた。


「ええ。それでいいわ」メタルレイスとなっても、やはり母親は強い。


「私もついて行ってもいいかしら」


「ああ。いいとも。ビークル五人乗りだから問題ないし」ニックが答えると、華幻は胸をなでおろした。


「焔を助けてくれた、あなた達のためなら、私はなんでもするわ」


「あらためて、よろしく」ルキアとニックは、華幻を仲間として迎え入れることにした。


 肝心のメタルワームの子供は、檻の中で鳴いていた。


「あ。肝心なことを忘れてた」そう言うと、焔が檻に駆け寄った。カギを開けると、メタルワームの子供を解放した。メタルワームは、ケガをしている様子もなく無事だった。


「もう捕まるんじゃないぞ」ルキアが言った。


 メタルワームは「ギーッ」と元気に一鳴きすると、何度も何度もルキアたちのほうを振り返っていた。嬉しそうに鉄砂の中へと潜っていった。メタルワームは、あたたかな家族の待つ場所へと帰ったのだろう。

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