8■有志間の主張の矛盾点
要望書にコメントを寄せた有志の方がたの考えは決して一枚岩ではないと思いますが、「MtFの参加要件を緩和してほしい」という要求は一致しています。にもかかわらず、その一致した要求の根拠として挙げられたコメントのなかには、相矛盾するメッセージが含まれています。
1)ウィークエンドの挙げたMtFに対する参加要件の厳しさについて、「ここには、『あるカテゴリの方には本質的に同じ性質を持っている』というマジョリティが使いやすいロジックがある」というコメントが要望書内にありました。しかし、先述した「同じ女性同士」という感覚にも、このロジックが潜んでいる気がします。何をもって「同じ女性同士」と感じたのかは明らかにされていませんが、明らかにされないがゆえに「そこまで説明しなくても『同じ女同士』ならわかるでしょう?」という同調圧力的なメッセージを感じますし、SRSの有無にも関わらず「同じ女同士ならわかる」はずだとされる、生物学的要因とは別の「女性の本質」が見出されうると思います。
したがって、マジョリティが使いやすいとされる「あるカテゴリの方は本質的に同じ性質を持っている」というロジックは、MtFの参加要件を厳しくしたウィークエンド側を批判すると同時に参加要件の緩和を求める有志側(の一部)をも批判する諸刃の剣である、という見方もできます。
2)前項の1)で取り上げた『同じ女同士』だと感じる」というコメントと、前項の4)で取り上げた「MtF女性と『普通の女性』の対比について。前者は、「あなたはわたしと同じだ」と言い、後者は「あなたはわたしと違う」と言います。しかも、どういう内容かは不明ですが、どちらもなんらかの「女性の本質」という基準に沿って、その方が同じか違うかを判断しています。いったいどちらを信用すればよいのでしょうか。
さらにまた、同じか違うかを判断するのは、MtF側ではありません。MtF本人はつねに判断される側に否応なく立たされます。これらのダブルミーニングは、MtFのみならず、女性というカテゴリに含まれうる多くの方がたにとっても、抑圧や混乱を招く言説になりかねません。
要するに、MtFの参加要件を厳しくした側も、緩和を要求する側も、レイヤーは違えど「女性の本質」を持った者が参加対象になるという点では共鳴しているわけです。前者の「本質」は教義のため、主にMtFを排除することになりましたが、後者の指し示す「本質」は極めて曖昧であり、また曖昧であるがゆえに、女性の自認を持たない者にとっては抑圧的に感じられるという側面があります。これは、発言者に抑圧を与える意図の有無とは無関係です。発言の効果として抑圧が読み取れるということです。
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