最終日②
僕は急いで飛び立つ。
そして、落ちていく優花を捉える。瞬間、羽を畳み急降下をした。
頭から落ちる優花の足をつかむ。急いで羽を広げ、ゆっくりと上昇していく。
だらん、とぶら下がった優花は何も言わない。抵抗するわけでもなく、ただ黙っていた。
僕は一つ提案する。
「優花、空、泳ごうよ」
「うん、最期は空がいい」
愛する人の言葉に、僕はスピードを上げた。
僕らは海と空の二色の青に挟まれていた。香る匂いと風が気持ちよい。
「すごいや、上も下も海だよ」
優花は上下を見比べながら言った。
「優花は気に入ると思って」
言いつつ、僕は高度を上げる。
雲が真横に見えるぐらいまで上がって、僕は上昇をやめた。
「死神なのに、羽が白いんだね」
不意に優花が言った。
「人間はよくそう言うよ」
はは、と優花が少し笑った。
純粋な笑みをずいぶん久々に見たような気がして、僕は何故だかとてもほっとした。
「ねえルイ」
優花が僕を呼ぶ。たったこれだけのことが何よりもうれしかった。
「もう一回だけ、雲を泳ぎたい」
悪戯っぽい笑顔。
僕も思わず笑っていた。
海の反射で固くつややかに見える雲へと僕らは飛び込む。
鳥のように、魚のように。
何度も何度も泳ぐ。
全てを雲の海に置いていくように。
いつの間にか現れたいつかのクジラ雲が僕らに微笑みかける。僕らの新たな門出を祝うように、古い友人のような笑顔で。
そして、雲から飛び出た瞬間、僕の羽根がどんどんと消えていった。
光を放ち、金色の雨みたいに、どんどん、どんどんと消える。
きっといくつものタブーを犯したせいだ。ということはきっと、僕も死ぬんだろう。
だが、本望ですらあった。今はただ、優花といたかった。
「ねえ、ルイ」
終わりを察したような、安らかな表情だった。
「ありがとうね、私と仲良くしてくれて」
「きみの命を奪おうとした死神だよ」
「関係ないよ。死神だろうが天使だろうが人間だろうが、ルイはルイだよ」
僕らは見つめ合っていた。ゆっくりと落ちながら。
「優花、愛している」
恥ずかし気もなく言った僕に、優花はふふ、と笑った。
「私も」
死が面前に迫っているというのに、僕らはきっと今世界一幸せだ。
そう自信を持って言える。
どんどん、どんどんと落ちていく。
僕らは手をつなぐ。
はぐれないように。
思い出をこぼさないために。
優花が笑っている。
それだけで十分だ。
そうして僕らは、海から海へと落ちていった。
君と羽と空と海と kanimaru。 @arumaterus
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