まじない

ろくろわ

まじない

 一つ、私の家の事について話したいと思う。

 私の父方の血筋は所謂いわゆる、『見える』家系と呼ばれるものらしい。家庭環境も変わっていて、私達の家には本家と分家とがあり、正しい使い方なのか分からないが、そのどちらも女性の割合が多く女系となっている。

 そしてこの『見える』力が強いのも女性であり、特に長女に現れやすかった。今は本家よりも分家の方がその力は強くなっている。

 伯母達は現実でも夢でも、よく不思議な経験をしていたそうで、特に良くない夢を見た時には予知夢として捉え、よく電話が掛かってきて忠告されたりしたものだ。


 私はと言うと本家の人間であったが、長男だった為か見える程の力は無かった。だけど何だか嫌な感じがするとか、大きな怪我をしないだとか、最終的には良い方向になっていくだとか、そういった先祖の加護みたいなものを強く感じる事はあった。だが、それと同時に良くないものに憑かれることも多かった。このあたりも血筋によるものなのかもしれない。この取り憑かれる感覚は、どうにも気持ちの落ち込む感覚に近い。自分の感情とは違うものが混じり、疲れているのか、やる気が出ないのか、落ち込んでしまうのとかそんな感じ。そんな時によく、気付けをしてくれたのが祖母で、祖母もまた見える人だった。


 祖母は昔から、言葉には力がありそれを使っていた。

 私がこうやって話を書いているのも、祖母の影響だろうか、言葉と向き合っていたいからだ。


 祖母はおまじないとして良くないものが憑いている私の背を軽く叩き「お帰り」と言っていた。不思議なことにその言葉を聞くと身体の底から軽くなっていったから、本当に言霊とはあって使い方で払うことも呪うことも出きると思った。


 話は変わり、そんな祖母と最期にあった時の事だ。それは祖母が亡くなる三日前のことだった。実家から、いよいよ危ないと連絡があり、顔を見に行った祖母は随分とやつれていた。祖母の周りには僕だけじゃなく、成人して地方に行った従姉妹達もきていた。

 祖母は来た孫達一人一人を撫でながら「お帰り」「お帰り」と言っていた。表情も険しく、きっと苦しい中、孫一人一人によく帰ってきたと言っている祖母を見て、みんな涙を流していた。


 祖母が亡くなって暫く。気持ちも整理がつき落ち着いてきた頃、皆で祖母の家を片付けていた時だった。

 姪っ子が誰かに尋ねていた言葉に、私達は片付けていた手を止めた。


「おばあちゃんは何が欲しかったんだろうね?どうしてって言ってたんだろう」


 もしかすると、死の間際。祖母は私達に「お帰り」と言っていたのではなく、苦しい自分と「お代わり」と言っていたのかもしれない。


 表情の険しい最期の祖母の顔がふと、脳裏に浮かんだ。



 了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

まじない ろくろわ @sakiyomiroku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ