第27話  道、半ばにして

フロイスにもっとも好意を寄せ手助けをしていた和田惟政は、元亀二年八月二十八日に、三好長逸と手を組んだ池田知正を討つために高山親子と共に茨木らに出陣し、荒木村重、中川清秀と対峙していた。攻めあぐねる高山らを見て手勢僅か二百で打って出たが白井河原で全滅し討死にした。


時に、四十一歳であった。


天正十年六月三日。

織田信長は、最も信頼を寄せていたはずの家臣明智光秀に謀反を起こされ本能寺にて無念のうちに自害した。


時に四十九歳であった。


フロイス神父は、その五年後。

信長の跡を継いだ豊臣秀吉が天正十五年六月十九日に出した「伴天連追放令」により、みたび洛中を追われることになった。


これまでの長い洛中での出来事に思いを巡らせながら、失意の中、長崎を出てマカオへと向かうことになった。それはこれまでにない絶望と敗北感に包まれていた。

文禄四年にふたたび長崎に戻ったが、もはや積極的な行動をとることはなかった。


秀吉たちに命を奪われた二十六の聖人たちの殉教記録を整理し、遺すことを最後の務めと決意し、その職務に就いた。


そして、慶長二年五月二十四日に、長崎のコレジオで、あの日の堺に向った船、洛中での出来事、信長との対面を思い出しながら没した。


時に六十五歳であった。



あの時の事。二人が感じたことが静かにこの世から消えた二度目の瞬間でもあった。

 

この世のすべてのこと。全ての人の全ての思いは、いずれも、道、半ばの出来事にして。いまだ遠くにして成らない。





参考文献

『フロイス日本史』五畿内篇Ⅰ~Ⅲ 松田毅一・川崎桃太訳 中央公論所 


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道、半ばにして 冬海真之 @AKIYAMASANEYUKI

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