第2幕 峡井トンネル(前編)


「なあ、今日って空いてるか?」

涼たちが裏山に行った2日後、少し髪がボサボサの少年こと沢川結糸さわがわゆいとは授業が終わるとすぐに涼に駆け寄り話しかける。涼と結糸は小学校からの大親友で、涼が唯一気兼ねなく話せる人物だ。

「!?。な、なに?もしかして、また怪異を探しに行くの?やめときなよ。」

涼は注意する。

「え〜なんで〜!涼は怪異に興味あるって言ってたじゃん。それとも、2日前の事件で涼は怪異に興味無くなっちゃったの?」

結糸は聞く。

「いや…。怪異に興味はあるけど、また意識が途切れたりしたら嫌だし…。他の人を誘えば?前、裏山に一緒に行った人たちはどうなの?」

「それが…。みんな、前の事件でもう行きたくないっていうから…。だからさ!」

「大田さんとか松井さんとかも?」

ちなみに、大田と松井とは裏山に涼たちと一緒に行った9人うち、不良っぽい少年が大田靖おおたせい、メガネの少年が松井萩一まついしゅういちだ。涼とは中学校で初めて出会った。

「大田は、こんな馬鹿げたこと2回もできっかって言って断られた。松井に至っては、普通に用事あるって断られたわ。だから、な、お前しかいないんだ涼!な!」

結糸はとってもしつこく涼を誘う。

「う〜ん。僕にだって…」

涼は少し苦い顔になる。

「お、お願いだから!涼しかいないんだ!お願いします!涼様!」

結糸は一生懸命涼にお願いする。目をキラキラさせてあたかもの上目遣いを使って涼にしがみつく。

(はぁ…。まあ、結糸一人で行かすよりかはいいか…。)

「分かった。でも、絶対別行動は取らないこと!絶対僕から離れないでね!それなら…」

「やったー!さすが涼様!頼りになるな、同い年なのにしっかりしてる〜!じゃあ、帰ったら迎えに行くよ!」

結糸は涼が言い終わる前にすごい勢いで喜びだした。

(はは…。もう計画立ててるし…)

リンリン。チャイムが鳴り響く。結糸は踊るように自分の席に戻っていった。

「ちょっと…。どこに行くのかぐらい教えてよ!」

「秘密!!」

先生が教室に入り、授業が始まる。静かになった教室で涼は自分の席ではーっと深い溜め息をついた。


涼が家に帰って少しすると、コンコンと家の戸を叩く音がした。

「やっほー!涼!さっきぶりだね!迎えに着たよ!怪異探し早く行こうよー」

結糸はものすごく元気に家の中にいる涼に話しかける。

「はいはい。分かったよ」

涼は家の戸を開けながら、呆れたように適当に返す。

「行ってきます!」

と涼は兄に挨拶をし、家の戸をきちんと閉めてから出発する。

「それで、どこに行くの?」

涼は結糸に聞く。

「フフン。着いてからのお楽しみ!!」


電車と乗合馬車を乗り継ぎし、涼たちは目的の場所に到着した。

「峡井トンネル?」

(いかにも怪異が出そうな名前…)

涼は苦笑いをする。そんな涼に見向きもせずに、結とは話し始めた。

「そう!こここそが怪異が出ると噂の峡井トンネルだ!!」

結糸はエヘンと得意げに紹介する。

「この峡井トンネルは、少し前に電車を走らせるために掘られたトンネル。でも、トンネルがそろそろ出来上がるってときに従業員が一人、このトンネルで行方不明になっちゃって。その後は、使ってた機械が立て続けに壊れたり、従業員の中で病気が蔓延したりして、気味悪がったおえらいさんが掘るのを中止して。それきりここは怪異が出るって噂になって、人が寄り付かなくなったんだよ!!」

「はー。よく知ってるな」

涼はため息交じりで反応する。

「なんたってこの【不思議!?怪異って本当にいるのか?特別号】で載ってたからね!」

(はは。まさかの本…。さては、急に怪異に興味が出たのもこの本のせいか…)

二人は会話を交わしたあと、トンネルの入口へと向かう。

「な、なんか…。出そうな雰囲気だね」

結糸が少し怯えながら言う。涼は何も言わずにトンネル内を見つめていた。そんな涼の横顔を見て、結糸は自分の顔をパンパンと二回叩き、よしっと気持ちを入れ直す。

「では。行こう!峡井トンネルへ!」

涼と結糸は二人で一緒に一歩を踏み出した。二人は暗いトンネルの中に飲み込まれていった。後ろの木の影から、黄色の生地に鱗模様と青い花が描かれた着物を着た女が二人の後ろ姿をじっと見つめていた。

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徒花の異譚 永作篠 朔 @nanashinosaku_882

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