多久山美蓮の未練

肥前ロンズ@仮ラベルのためX留守

お盆

 私は多久山美蓮たくさんみれん

 死んでからかれこれ20年が経っているわ。

 ただいまお盆の里帰り。

 この日をずっと待っていた。



 私は念力で、スマートフォンをいじる。

 この20年、スマホだのWiFiだのギガだの、科学技術が目まぐるしく進歩したけれど、私は何とかこれをクリアした。

 この10年の待ち遠しさを思えば、こんなデジタル媒体、ちょちょいのちょいよ。実体を持たないと言えば、私たち幽霊だってそうだし。

 ババババー! とスクロールしつつ、私は肉体の制限から解かれた目をフル活用する。

 さあ! 私のお目当てのものは!





 八月十六日。

 

「どうして……どうして『ガラスの〇面』の新刊が出ていないのおおおおお!」


 私は泣いた。地に膝を着いた。

 この10年。あの名作は更新されていなかった。

 ニュース記事で調べると、先生も大変らしいことがわかった。

 代わりに無料で読める期間があったから、読み直した。

 やっぱり名作だと思った。

 来年も、読みに帰ろう。現世に。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

多久山美蓮の未練 肥前ロンズ@仮ラベルのためX留守 @misora2222

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ