第2話 告白とクラスメイト
面高ちひろが別れた。
その事実は数日で学校中に広まった。なぜ別れたのか、何が理由なのかを知る者は少ないが人気の女子が別れたのである。当然、これまで彼氏がいるからと諦めていた男子達が行動に写し始める。
「面高さん! 好きです! 付き合ってください!」
「ごめんなさい」
「お友達からでも!」
「それならいいよ。はい、LIME」
今日も告白されている。俺の元カノが。
昼休み俺は告白現場を眺めていた。もはやここ数日でこれはよく見る光景となっていた。毎日の様に昼休みになると告白が行われている。中にはフラッシュモブをやる奴なんてのも居たがあっけなく振られていた。
「あ、またやってんじゃん」
遼太郎が窓から告白を見ていた俺の横に乗り出してきた。
「今回もだめだったよ」
「そうか~」
「やっぱり、並大抵じゃだめってことだな」
そう。ちひろと付き合うには並大抵じゃだめだったのだ。聞いた話ではちひろは他校でも有名で町の学生の中ではかなりの人気らしい。それは他校の人に告白されている所を見たときに遼太郎が教えてくれた。
「陽キャの中の陽キャか、めちゃくちゃイケメンじゃないと厳しいかね~」
「だな。まあ、俺にはもう関係のない話だよ」
俺はちひろが次の生徒を振ったのを見届けて、窓から離れた。
何をやっているんだろう。俺は。毎日元カノが告白されている所を観察して。
その目がこちらを向くとでもどこかで期待しているんだろうか。期待しているんだろうな。
その目がこちらを向くことなんてもうないのに。
「お、吹っ切れたのか~?」
「うるせ」
俺たちはそのまま教室を後にし、自販機で飲み物を買いに教室を出た。
***
「俺はカフェ・オレにするわ。…俺、オレにする」
「何言ってんのお前」
「うるせぇ、殺すぞ」
「物騒すぎるだろ」
とんでもなくしょうもないギャグを遼太郎が呟いたので思わず声に出してしまった。
そうしたら余りにも物騒な言葉が飛んで来た…。それで殺されたら世紀末過ぎる。
ホワチャァッ!!
「んで、お前はどれにすんの?」
「何、奢ってくれんの??」
「んな訳ないだろ。何言ってんだお前」
「…殺すぞ」
言っちゃった。奢らないならそんな感じの雰囲気出してんじゃねぇよ。QR決済の画面をひらひらさせながら飲み物聞いてくんなよ。マジでぶっ飛ばすぞ。
「…俺もカフェオレにするかな」
「そうか。なら俺はコーラにするわ」
ピッ。
こいつっ! コーラにしやがった!
「何?」
「…いや、何でもないわ」
「そうか。まあ何だ。強く生きろよ」
にらみつけていたらそんなことを言ってきた。何を勘違いしてるんだこいつは。なんで哀れむような目で俺の肩叩いてんの? しかもコーラ飲みながら。むかつくなぁ、こいつ。
「買うからちょっと避けてくれ」
「ういうい」
言葉を返すのも面倒だったので俺もスマホを取り出しカフェオレを買った。
俺が買ったのは『牛乳王国』という名のカフェオレだ。王国と言うくらいふんだんにミルクを使っているのである。俺の中ではトップティアの飲み物だ。
「んあ」
「ん?」
牛乳王国を拾い上げ、ストローを刺そうとストローの取り外しに苦労してると、遼太郎が校舎に続く廊下の先、つまり校舎と自販機のある場所の境目に目を向けた。
「……」
俺もつられて目を向けると、そこにはちひろが居た。
いつもの仲のいい友達たちと話ながらこちらに向かってきている。俺たちと同じく飲み物を買うつもりなのだろう。
数日経ち、少し気分は落ち着いたものの、それでも彼女と話せる気はしなかった。
「あ、ちひろ、あれ」
「ん? どったの? ……あ」
派手な見た目をしたちひろの友達が俺に気付き、俺を指さした。
ちひろと目が会う。
「…えっと、あ~」
すぐに目をそらしてしまう。
言葉が出てこない。なんて声をかければいいのだろうか。以前まで気軽に話していたのに、今やなんて声をかければいいのかさえ分からない。それほどまで俺と彼女の距離は離れてしまった。
彼女は俺のことをどう思っているだろうか…。いや分かっているけど…。
俺は恐る恐る彼女へ再び視線を戻した。
「っ!」
また、逸らしてしまった。
彼女は俺のことを何か嫌な者を見る目で見ていた。会いたくなった嫌いな人に会ったかのように。
「…やっぱジュースいいわ。もどろ?」
明るい声を出して周りの友達にそう言った。
「そ、そうだね! 戻ろっか!」
「だな~。俺もやっぱいいや」
彼女達はそう言いながら戻って行く。
隣のクラスの中心人物達。クラスの隅で大人しくしている俺たちとは違う。ちひろ曰く、”棲んでいる世界の違う人”達だ。
本当に、嫌われたものだな…。
「おい」
俺が牛乳王国を見つめながら黙っていると、ちひろの友達の一人。1年生ながらに野球部のエースをやっていると有名の山下が話しかけてきた。ちひろ達には聞こえないように、最小限の声で。
「お前よ、あんまり迷惑かけんなよ。うっとうしいんだよ。お前のせいでちひろが少し不機嫌になっただろうが。目障りなんだから端っこで大人しくしてろ。糞陰キャが」
なんでこんなことを言われなきゃいけないのだろう。俺は何もしていない。ただ、遼太郎とカフェオレを買いに来て、喋って居ただけだ。後から来たのはそっちなのに。でもそんなことも俺は言えない。言えばどうなるか分からないからだ。恐くて動けない。
「…っ、お、おい!」
「…あ? 何」
遼太郎が声を上げた。遼太郎を見ると震えている。遼太郎は背が俺よりも小さい。大して山下は190センチ超える大柄な生徒だ。
俺のために声を上げてくれるだろう。それは純粋に嬉しい。でも、それでお前に何かあったら俺はお前の前に立つことが難しくなってしまう。
「…何? 言いたいことあんなら早くしろよ」
「…お、お前な!」
「りょ、遼太郎! いいんだよ。いいんだ。俺、目障りにならないように気をつけるから。山下もそれでいいだろ?」
「はっ! これだけ言われて何も言い返せないとか。だっさ」
山下はそう言ってちひろ達に合流すべく、背を向けていってしまった。
ださい、か。確かにな、友達が俺のために怒ってくれていたのに俺は、へこへこと。情けない。
「…たく。何だってんだあいつ。どっちがださいってんだよ」
「ありがとな、遼太郎」
「ん、ああ。気にすんなよ、あいつの言うことなんて。さっきも言ったけど俺はお前のこと好きだし、ダサいとも思わないからな」
まだ怒って居るようで、ちひろ達が戻って行った方を見ながら苛立たしげにしている。
ああ、ありがとう。その言葉で少し救われるよ。お前が友達でよかった。
「大変ね。二人とも」
!?
「うおっ」
俺たちは突然後ろから聞こえた声に体を飛び上がらせる。
心臓が飛び出そうになったぁ…。
後ろを見るとそこには身長が高めの女子生徒。丸眼鏡をしてマスクをしていて、前髪が目元まで伸びている。俺たちのクラスメイト、浜松胡町さんが立っていた。
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