第6話 ドキドキのバスケットボール


「はいーっす」

「おう、おは」


 休み明けの朝、教室に入るといつも通り遼太郎が先にいた。


「いつも早いな」

「まあな、歩いて5分だし」

「マジで羨ましいわ」

「いや、いつも学校が目に入るの結構嫌だぞ」

「そう言うもんか?」


 他の生徒達も続々とクラスに入ってくる。休み明けの月曜日ということもあり、だるそうな生徒も何名か見受けられる。

 

「あ、おはよう。小野寺君、一ノ瀬君」


 女の声がかけられる。

 知ってる、この声は。何故か俺に絡んでくるあの人の声だ。


「おはよう。浜松さん」

「今日もがんばりましょうね」

「う、うん。体育もあるしね」

「ああ、そうだったわね…」

「体育は嫌いなん?」

「いえ、ただ寒いから。うちのジャージよく風邪を通すじゃない」


 どこの体操服でもそうだと思うが、ジャージは隙間があきまくっていてよく風を通す。風が吹いた時なんかほぼ半袖半ズボンと変わらん。


「まぁ確かに。でも動いてると気にならなくない?」

「…そうだけど。最初がね」

「確かにね」

「じゃ、また後で」

「うん、また後で」


 浜松さんは自分の席へと歩いていく。

 休みの日にあったあの姿とは全く違い、いつもの顔のほとんどが隠れている姿だ。


「…え、お前いつの間に仲良くなったん?」


 先程のやり取りを見ていた、というか浜松さんに挨拶された遼太郎は戸惑ったように、コソッと俺に聞いてくる。


「まぁちょっと休みの日にたまたまあったから」

「それであんなに普通に会話するようになる?」

「それな。俺も思った。休みの日あった時も話したことあんまりないのにめっちゃ話したんだよな」

「意外とコミュ強なのかな、浜松さん」

「可能性はあり」


 浜松さんは意外とコミュ強。そう言われると納得してしまう。

 自販機の前で一言喋っただけなのに、休みの日にあったら話しかけてきて、ファミレスまで行った。…いやでも、中学の時モテてたとか言ってたな。だったら別に不思議でもないのか…?


「てか、体育今日なんだっけ」

「確か、バスケだったか?」

「あれ? 前の授業でバスケのテストしなかったっけ?」

「確か、時間余ってるから試合形式をずっとするみたいなの言ってたぞ」

「まじかよ。いいねぇ。俺の華麗なボールさばきを見せてやるか」

「普通それってサッカーとかで言わない?」

「そうだっけか?」



 遼太郎とたわいもない話をしていると、チャイムがなった。始業の合図だ。

 生徒たちはその鐘を聞き、思い思いに席につき始めた。










***




 


「はい、じゃあ今日は男女混合のドキドキバスケを行います」



2クラス合同で行う体育の授業。

冬なのに半袖半ズボンの頭のおかしい女性教諭、森下はそういった。格好もバグっているが言動もバグっている。教師が言っていい言葉じゃないだろう…。


「せんせー、チーム分けはどうするんですか?」

「先生の独断と偏見で面白そうなチームを作った。それは、これだ!!」


ばんっとどこから持ってきたのか分からないホワイトボードに手を打ち付ける森下。

チーム編成が書かれた紙が貼られてある。クラスも男女も混じりあっている。


「おい、春成。お前ちひろさんとは同じチームじゃないっぽいな」

「…だな。良かった。気まずくなるところだったわ」


先程も言ったように体育は2クラス合同だ。俺たちのクラスと一緒にやっているのはちひろ達のクラス。

ちひろと同じチームになった男子は心做しかソワソワしているように見える。

まぁ、ちひろは体操服の上から分かるくらい胸がでかい。やましい期待をしても仕方ないだろう。



「俺はお前と同じチームなだけで安心だわ」

「春成と同じチームかぁ…」

「なんだよ、嫌なのか」


何故か残念そうな声を出す遼太郎。なんだ?嫌なのか?それならちょっと凹むな。


「大喜びだ」

「…やっぱり俺たち友達だ!」

「ああ!」


紛らわしいことやりやがって。


「で、俺たちのチームの女子はっと」

「私ですね」


自然と会話に混ざってくる浜松さん。

俺たちのチームの女子のうち1人は浜松さんだった。


「体育でもマスクっていつも思うけどしんどくないの?」


体育でも彼女は変わらずマスクにメガネ、前髪で目が隠れている。前見えてんのかな。


「大丈夫。それに先生の許可も貰ってるから」

「まぁ森下ならOKするか」


森下の性格的におっけー!とか直ぐに言いそう。


「それはそうと、よろしくね。小野寺君、一ノ瀬君」

「あ、お、おう。浜松さんもよろしくな!」

「よろしく!」


戸惑い気味に遼太郎は答えた。

自分に話しかけられるとは思ってはいなかったのだろう。



「よ〜し、だいたいみんな見たか? じゃあチームごとに別れて、早速ゲーム開始するぞ〜。きりーつ」


森下の言葉を聞き、座っていた生徒たちはチームごとに別れ始める。




「よし、じゃまずは〜」



森下が、チームの代表者を勝手に決め、そいつらを呼び出して組み合わせ表が書かれた紙を渡し始める。

ちなみに俺たちのチームの代表は俺。

…なんで?









「へい!パス!春成!」

「っ!」


遼太郎にパスを出す。初心者ながらに頑張って、習ったとおりに胸からシュッと。

ボールは上手いこと遼太郎の手に渡る。


「よしきた!」


ボールを持った遼太郎は一気にコートを駆け上がる。



「明美さん!」



ゴール間近にいる、俺たちのチームの女子。明美さんにボールを出す。

明美さんは違うクラスだが、バスケ部に所属している。なんと、話を聞くと1年ながらレギュラーに選ばれているらしい。頼りにしてるぜ!


「おっけ!」


ボールを持った明美さんは

ゴール付近にいる男子と女子をスイスイっと交わし、レイアップシュートを決めた。



「よっしゃ!」



周囲からぱちぱちと拍手がされる。

試合を行わないチームは周りに座って観戦しながらお喋りをしている。


俺たちのチームは強かった。

元バスケ部の遼太郎に、現バスケ部の明美さん。この2人が無双していた。

この2人にボールを回しておけば面白いくらいに点が入っていく。

俺はボール出し役。そして浜松さんも俺と同じくボール出し役。もう1人のチームメイト、高橋さんもボール出し役。

ちょこちょこシュートも打たせて貰えたり、ドリブルしたりしたが基本的には負けそうになると2人が無双して点を決めていく。


「いやー、あの2人凄いね」

「ですね。まさか一ノ瀬くんがあんなに動けるとは」

「中学の時、バスケ部のエースだったらしいよ」

「へぇ、人は見かけによらないですね〜」

「え、一ノ瀬くんってそんなにすごいんだ」


俺と浜松さんの会話に高橋さんも混じってきた。ショートカットでスポーティな印象を与える女の子。男子にもそこそこ人気の子だ。


「らしいよ。怪我が原因で辞めたらしいけどね」

「へぇ。一ノ瀬くん、いいなぁ」

「え」


遼太郎を見ながら恋する乙女の顔をしている高橋さん。ギャップ萌えと言うやつか??

遼太郎は確かに顔は悪くない。というかどちらかと言えばイケメンの部類に入るのではないだろうか。中性的な見た目をしているのだ。

でも普段は大人しくクラスの端で俺とだべっているからあんまり注目はされていない。


「りょ、遼太郎に言っとこうか…?」

「え! あいや! それはいいよ!」

「そう? 上手いこと間を取り持つよ?」

「そ、そんなんじゃないから…!」

「ふ〜ん」


ニヤニヤと高橋さんを見る。その様子を浜松さんも楽しげに見ている。髪で隠れてハッキリは見えないが目がにやにやしていた。


高橋さん。そんなじゃないとか言っても無駄だよ。さっき思いっきりいいなぁって言ってたしね!



「おう、春成。もう試合終わるぞ」



遼太郎がそう言いながらこちらにやってくる。

試合の時間を表すでっかいタイマーを見ると残り20秒程だった。


「だな」


相手チームがボールを持って攻めてくる。点差はさほど開いていない。所詮は体育だ。あまりにも遼太郎たちが本気でやったら面白くなくなる。だからある程度にしているのだ。


向こうチームは楽しそうにこちらに向かってくる。


「よっしゃ! 守るぞ!」



遼太郎はそう言ってボールを持ってドリブルしてくる生徒に向かっていった。






 

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